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ライブをするために、本腰入れてベースをやるようになってから僕の世界は鮮やかに色付き始めた。ただ単に生きる価値をベースに縋っていた前の僕とは違う。
ライブでベースを弾いて、そのライブで誰かが僕の存在を認めてくれることが堪らなく嬉しかった。ドラムの日根さんとかギターの上田さんは会う度にお菓子をくれたりしたし、可愛いロリィタの子が高い声で名前を呼んでくれるのとかも。今まで人間自体に関わることを拒んでいた僕だったから、そういった小さな関わりが生きる糧になりつつあった。

やっと安定してきたある日。
鬱陶しい蝉の声を遮断するように部屋の窓を閉めた宮瀬さんは、ベースの弦を張替えていた僕に向かって座った。
「ちーちゃんごめん、明日から俺の彼女みたいのと同居するんだ」
ごめん、の意味が曖昧だった。
僕は意味が分からず、3弦を引っ張ったまま宮瀬さんの顔を見つめ返した。
「訳あって、ちーちゃんとソイツと俺の3人で暮らせないんだ。本当は3人で暮らせたらいいんだけど」
彼は本当に申し訳ない表情をしていた。
外の蝉時雨も気不味そうに、じりじりと鳴く。
このままずっと宮瀬さんと暮らすのに悪い気もしていたから、独り立ちする機会を伺っていた僕はこくりと頷いた。彼女みたいのって言葉に少し引っ掛かったけど。
「すぐって訳じゃないんだけど……。もし難しかったら、不動産屋一緒に行くよ」
「大丈夫、」
久々に出した声だったから、少し語尾が濁った。空咳をして誤魔化すと、宮瀬さんが心配そうに僕の顔を覗く。
「自分で出来る、多分。もう20だし。いつまでも宮瀬さんに頼る訳にもいかないし」
そう自分に言い聞かせるように喋った僕は、ベースに視線を落とした。次の4弦を引っ張る。
宮瀬さんは立ち上がって小さく笑った。
「巣立ちを見送る父親の気持ちだ」
宮瀬さんが父親だったら、僕は彼が8歳の時に生まれたことになる。ちょっと想像したら色々気持ち悪かった。



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