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猫が逃げ出した、らしい。ミヤセが買ってくれた猫の内の1匹だったから、ちょっと悔しい。しかも猫にしては尻尾が無い珍しい子だったのに。
悔しいから、ちょっと探しに行こうと家の外に出ることにした。敷地内だったらミヤセも文句は言わないだろう、

が、玄関は開かなかった。
結果として、家の主である自分は自分の家に閉じ込められたことになる。
裏口も開かなかった。ミヤセはそこまで自分のことを信用していないのか。
無駄に広いこの家は、ミヤセが居ないと無駄に「独り」を強調されて嫌だ。
外に出る為に持った日傘を、ずるずる引き摺りながら出口を求めて家の探索する。

両親は家に居ない。いつから居なくなったか自分自身でも解らない状態だ。最早自分に両親が居るのかさえ解らない。
半幽閉生活を送らされているのにも理由があるのだろうか、まあ自分はミナセが近くにいればいい。ミナセが自分の全てであり、世界だからだ。

1階の部屋を全部探索したところ、どこの部屋もただ埃っぽいだけで開けれる窓は1つもなかった。開けられそうな窓はといえば、自分より遥かに高いステンドグラスの窓で、今後身長が伸びたところで何年かかるか計り知れないぐらいだ。
ローファーを脱いで、無駄に長いテーブルの上に立って手を伸ばしても到底届かない。ミヤセが3人重ならないと駄目だろう。
諦めてテーブルから降りると、足の裏が埃で黒くなっていた。それでも気にせずローファーを履く。
2階にはミヤセの部屋と自分の部屋しかない。希望はミヤセの部屋に託された。

階段の突き当たりの、装飾が多いドアノブを捻ると黒い扉は簡単に開く。そういえばこの間、鍵が壊れたとかミヤセが喋っていた。
軋むことなくゆるりと開いた厚い扉の向こうには、知らない世界が広がっている。考えたら今までミヤセの部屋に入ったことがなかった。
躊躇いも無しに彼の世界に踏み込む。
1番最初に目に入ったのは、全身鏡に映った自分自身の顔。多分、記憶の限り初めてマトモに見る。想像していた自身の顔より、ずっと童顔だった。
ベッドの横にギターが3本並んでいる。赤と黒、そして青の3本だ。黒のギターに限っては弦がピンクで、ミヤセの趣味を一瞬疑った。
壁には殴り書きとも言えるサインが手形の脇に添えてある色紙と、4人の人間が殆ど死んだ目でカメラ目線のポスターが1つ、貼ってあるだけだった。そのポスターの右側の人もミヤセと同じ刺青を右手の甲に彫ってある。りすぺくたあ、というヤツだろうか。

窓はやっぱり開いていなかった。
ミヤセの世界を覗けたことに満足で、もう家から脱出することはどうでもよくなっている。
床に散らばるDVDの一つに手を伸ばし、テレビの電源を入れた。
ミヤセが帰ってくるまで時間は大分ある。



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あきゅろす。
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