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今日も右手の甲に梵字の刺青が彫られたお兄さんがお酒と煙草、甘い物諸々を買いに来てくれた。彼は火曜木曜土曜日の週三、ここのコンビニにお昼前には必ず来る。
梵字のお兄さんは黒髪でアシメに前髪を切り揃えている。どこかで聴いた声と風貌で、たまに楽器を背負って来るから、多分どこかのバンドマンなのだろう。見たことあるけれど、よく思い出せない。

バイトが長引いた。
新人研修のためにシフトを引っ張られた私は、新人に仕事を教えることになった。新人は2つ下の高校生、名前は早苗とか田舎っぽい名前だった。
研修のお礼に、店長から今日が賞味期限のコンビニ弁当を貰った。オムライスと中華丼の二つ。同居人は喜んでくれるだろうか。

9時となれば流石に夏とはいえども真っ暗で、街灯の明かりしか通りには見えない。ゆらゆらと飛んでいる小さな蛾たちの1匹が街灯の電球に当たったため、ばちりと音を立てて落ちていく。
まるで自分みたいだな、とか思いながらさっきまで生きていた蛾の死骸を眺めて通り過ぎた。他の蛾はまだ頭上の街灯に集っている。
蛾を眺めていたら急にアイスが食べたくなった。


結局、近くのコンビニでガリガリ君を2つ買ってきてしまった。職場とは違うコンビニで買ったから、好きじゃない人に貢いだ気分だ。
ビニール袋を2つ右手に、左手で家の扉の鍵を開けた。プレートには「609号室」とあるが、真ん中の0がマジックのバツで消されている。同居人の仕業である。
「ただいま」
チェーンが繋かっていたので、外から外して中に入る。自分が言うのもなんだが、ここのマンションは結構適当な造りだ。

同居人が倒れていた。
そりゃあもう、主人の帰りを待ち侘びてそのまま野垂れ死ぬ忠犬ならぬ馬鹿正直な犬みたいに、床に俯せでへばり付いている。
私は靴を脱いで、同居人の金とピンクのツートン頭をぺちぺちと叩く。
「ただいま、」
叩いても何も動じない。
「ご飯にしようか」
私がビニール袋を床に置くと、ゆっくりと頭を持ち上げた同居人。首が広いTシャツを着ているから、ブラジャーと無い胸がこちらのアングルからまる見えだ。
同居人はのそりと起き上がり腹をぐうと鳴らせた後、私の頭をやられたようにぺちぺち叩いた。
「ごはん」
同居人は食べ物しかない世界の脳内で生きている。




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あきゅろす。
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