[携帯モード] [URL送信]
10

あの猫はあの日の猫だった。

今朝の猫の死体は褐色の印を残して消えていた。やがて雨が降れば跡形もなくなるだろう。
放課後、苺は今朝お祈りしていた場所を何事もなく通り過ぎる。彼女にとってはただの猫、一種の通過点に過ぎないのだろうか。

「で、早苗ちゃんからゲーム借りてちょっとやってたんです。そこで接客する客の、京サマってキャラがですね、私に告白するんですけど」
猫の死体の話題から遠ざけようとしているのが必死な苺から分かる。
「いつも完璧な俺が、お前と居ると完璧でなくなってしまう、」
って言ったんです、不意に僕の顔をみた苺。彼女の夏用のケープがゆるりと揺れた。早苗以外の異性の目を直視するのが苦手な僕が、慌てて逸らそうとすると苺は困ったように笑った。
「学くんみたいですよね。あの猫に餌やる時の学くんとか、私と居る時とか特にそう。完璧なんて言葉は言葉でしか存在しないんだろうですけど、」
苺が急に立ち止まったので僕も歩みを止める。深呼吸をする彼女。何が言いたいのか全く理解出来ない。
「私、付き合うって作業自体初めてで、勢いで告白してしまったようなもんだったんですけど、」
苺は筋が通っていない話をつらつら重ねる。とうとう見兼ねた僕は彼女の両頬を引っ張った。
ひゃにひゅるんですひゃ、苺がばたばたと涙目で暴れる。これ以上意味不明な話を続けられると蕁麻疹が出てしまう。
僕が両手を苺の頬から離すと、彼女は不服そうな顔で僕の手を握った。
とりあえずあれだ、
「僕も好きだったから別にいいんじゃないかな、もう半年経つんだし」
珍しくカユイことを言ってしまった。
苺が嬉しそうな視線を僕に向けたから、思わず空を見上げてしまう。
明日はきっと嵐だ。
境内の笹がさらさら揺れた。


FIN

20120508



xTRiPxサクライロ



[*前][次#]

10/14ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!