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R E B O R N !


「…………山本」
 自分には、そんなに柔らかなものはない。
 いつでも自分の意見は自分の意見であって、自分の意思のみで制御するものだと思っている。
 しかし、この男は自分の意思を、周りの環境の最良の選択に移行させることが簡単に出来てしまう。そう簡単に折れたならプライドすら傷つくのではないかと思えるほどに。
 否、立場が獄寺だったら、確実に傷ついているであろう。
「獄寺?」
「お前、打ちたかったんじゃ、ねえのか」
 そう思ったら、何かが堰を切ったように溢れ出した。
「打って、相手を見返してやりたかったんじゃねえのか? もっと自分らしいバット振りたかったんじゃねえのか? ………お前はそれでいいのかよっ」
「獄寺……」
「だって、お前今日の試合のためにずっと練習してたじゃねえか! 放課後遅くなっても、朝すっげぇ早くても、お前はずっと必至でバット振ってた!」
「獄寺」
「なのに、あの活躍のチャンスでバントだ? お前は悔しくねえのかよッ」
「獄寺っ!」
 山本に強く名前を呼ばれて、はっ、と我にかえる。
 目前には、こちらを見つめる山本の姿。何故か、先程の視線よりも強い何かを感じて、獄寺は言葉を失った。
「あのな、獄寺。野球ってのはさ、チームプレイなんだよ。ピッチャーがいて、バッターがいて、野手がいて……何て言えばいいのかな、個人個人が争ってんじゃなくて、チームっていうでかいモンがぶつかり合ってるっていうか……上手く言えねぇけど」
 山本はふと視線を外し、どこか遠くを見つめるように語りだした。
「監督からはさ、よくフォー・ザ・チームって言われるんだ」
「……“チームの為に”」
「お、さすが獄寺、英語得意なのな」
「このくらい普通だろ」
 軽口を言う山本の目が、余り笑っていないことに気付いて、獄寺も小さく返事を返す。まだ、山本は遠くを見ていた。
 一体、何を見ているのか。自分も見えるものなのか。
「なあ、獄寺。あそこでオレが打ったとしたら、どうなっただろうな。きっと、“オレは”あいつらには勝ってただろうな……チームじゃなくて」
「…は?」
 山本が得点すればチームの得点となるのだ、チームが勝つに決まっている。獄寺には山本の考えがいまいち分からなかった。
「だからさ、戦ってんのは選手同士じゃなくてチームなんだって。ピッチャーとバッターの一騎打ちじゃないんだ。オレ一人が突っ走って勝ったって、そりゃチームの勝利じゃない。オレ一人がヒット打って得点しても、そりゃオレの得点であってチームの得点じゃない。分かるか?」
ふいに、山本が振り返った。
 汗に濡れ、日に焼けた肌。精悍な面差し、風に揺れる黒髪、そして強い意志を秘めた瞳がこちらを見つめる。
「お前も、……ツナのチームの一員だろ」
「……!」
 急に、山本が遠くに行ってしまったように感じた。
 手が届かないような、遠くへ。


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あきゅろす。
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