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許して欲しい(感情を取り戻して後)

あの日から私の中の何かが変わった。
朝起きても頭が酷く痛い。手が冷たい。喉が渇く。それは水を口に含んでも渇きは潤わない。
着替えて部屋の外に出る。そして私は立ち止まった。自分でも分からない。意識して前を見るとその部屋を見て息が詰まった。吐き気がする。胸が苦しい。
嗚呼、どうしてだ。前は何も感じなかった。感じようとも思わなかったのに、酷く胸が痛くて辛い。それは感じたことのない痛みで。


「し、しょ……」


思い出したくないのに、頭から消えない。消えてくれない。消させてくれない。ズキズキと頭が痛む。
嗚呼。分かる。今ならわかる。いや、分かった。ようやく、生まれてからもう何千年と経っているはずなのに、今ようやく分かったのだ。



───人が死ぬというのがどういう事なのか



扉を開けて入る。まだ備品はそのままで。微かにあの人の香りが残っている。残っているのにこの部屋の主は二度と帰ってこない。もう二度と話せない。もう二度と──会えない。
そう思うと胸が更に苦しくなる。辛くなる。嗚呼。畜生。悔しい。悔しいくらいに私はこの人がきっと好きだったのだ。


「…っ……ぁ」


しかし、私がいくら好いていても、尊敬していてもきっと、彼は許してはくれない。殺した。私が。彼の大切な人達を殺したのだ。


「……畜生…ほんと……貴方という人は……っ」


この爆発しそうなものを抱えて生きていけというのか。この人が殺されるのが当たり前になっているこの黒の教団で、生きていけというのか。あなたは。
本当に、余りにも酷い復讐だ。胸が抉られているようだ。感情がなく家族を殺して何も思わなかった私に対する復讐は、私に感情を教え自分が死ぬことなど、馬鹿だ。馬鹿馬鹿しすぎる。


「……ぁぁ」


馬鹿馬鹿しすぎるが、どうだ。私はそれに嵌ってしまった。見事に復讐、成功しているよ師匠。あなたのせいで私はこの感情が捨てられなくなってしまった。苦しい。辛い。胸が痛い。心が痛い。胸が張り裂けそうで。


「……ぁぁああああああ!!」


抑えることが出来ない。
それでも捨てられないから。一度感じてしまったから。復讐だったとしても、この貰ったものを私は捨てたくない。

だから───





「…私は、……いや、俺は……」


抱えていきていく。きっとそれが、俺が、師匠に大して出来る償いだから。


「もう感じない、「私」はここに置いていく」


どう生きたらいいのか、どうすればいいのかまだ分からないが、貰うよ。貴方のものを。


「俺は終わらせるから。だから、もう一度、会えた時は……」


どうか許して欲しい。大切なものを奪ったことを。
そして許して欲しい。あなたを好きでいることを。
俺は、頑張るから。どんなに苦しくても逃げないから。

だから、どうか───




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