我が愛子(アルマ編以降の話)
目が覚めた時、周りの安心した声とは逆に冷えきった自分の心にまずいとまっさきに思った。酷い身体中の痛みとさらに強まっている首の締まりに、酷い頭痛と吐き気は傷が落ち着いても治ることはなかった。あいつのイノセンスを受け過ぎたこの体は悲鳴をあげ始めていた。その体の悲鳴に苛立ちが積もっても、それを受け止めてくれていたあいつはもういない。その事実はより俺の心を冷えさせた。
任務が終わると歩くのすら辛く感じる。痛い。体中が痛い。頭の中が痛い。気持ち悪い。
『あるじ……』
自室のベットにようやく寝込んだ俺の頭を煌華が優しく撫でている。不思議と煌華に苛立ちを感じる事はなかった。
『もう妾の術で痛みを誤魔化すのは限界じゃ……これ以上のイノセンスの発動はあるじの命に関わってしまう』
「……っ」
声を出すことすら辛かった。冷や汗が滲む。
『それでもあるじが戦いたいと思っておるのと伝わっておる。しかし、あるじ。最近のあるじは何をしていても辛そうなのじゃ……見ておられん…』
「……、……」
『ユウとアルマのことが辛いかえ?』
「っ…」
『あるじ、自分を責めるでない。あれはおぬしは悪うない。神田ユウが本気で言ったのではないのもわかっておるじゃろう……それでも言われたことが辛かったかえ?』
「……」
『……本気だったと言いたいんじゃな。そうであってもあるじ。あるじとアルマとユウが過ごした時間は本物じゃ……偽りでも何でもない。おぬしらだけのものじゃ。それを否定してはならんよ。妾は忘れろとは言わぬ……優しく時間をかけて胸に抱ける思い出になれるといいの』
優しい煌華の声に力が抜け俺はそのまま意識を落とした。
篠神が意識を落としたのを見守った煌華は小さくため息をついた。
妾はあるじの、神月のためになにもできん。どんな悲しさも辛さも抱え込んでしまう。それを神月が唯一遠慮なく爆発させられる相手が神田ユウじゃった。彼がいなくなった今、また己の殻に神月は閉じこもりかけている。それは千年伯爵と共にいた頃の神月に近い。このままでは神月は闇に落ちてしまう。
神月の首に刻まれている忌々しい刻印は妾の力では消すことはできない。これさえちぎってしまえれば今よりも神月は楽になるだろうに、なんと神獣なのに無力なのだろうか。
『……生きておくれ』
両親に生きることを否定された可哀想な愛しい我が子も同然の神月。嗚呼、この命すら削ってしまえるほどに妾は愛おしく思っておる。可愛い可愛い愛し子。
せめて妾はずっと最期の時まで共にいよう。この愛を知らぬ寂しき愛し子が、死ぬ時も寂しい思いをせぬように。
『ゆっくりおやすみ、愛しきあるじ』
【イノセンス:神獣天狐・煌華】
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