第53夜 ブックマンJr.ラビ
「コムイさん入りますよ」
欠伸しながらアレンと共にリナリーが眠っている部屋へと入る。するとどうだろう。資料の山にリナリーが眠っているベッドが埋まっていた。
『アホか……仕事終わらせてから来いよ』
「………リナリーが埋まってる」
リナリーのベッドの傍でペンを持ったまま寝ているコムイを発見し資料やら本を崩さないように近寄る。
「コムイさん!」
「……zzzz……zzzz」
『コムイ起きろ』
「………zzzz……zzzzz」
揺り動かしても起きないコムイにアレンが耳元に口を近付けてボソリと一言吐いた。
「リナリーが結婚しちゃいますよ」
その瞬間どこから取り出したのかも分からないドリルを片手に即起き上がった。なんとも言えない目で俺たちはコムイを見つめた。
「おはようございます」
『これが教団のトップって……』
「アレンくんか…それに篠神くんも」
『よお、相変わらず仕事サボってたのか?』
「篠神くんも3日も起きないなんてちょっとビックリしたよ」
『わりぃ…ちょっと、な』
「で、何だい?」
「リナリーのお見舞いに…まだ目が覚めないみたいですね」
「長い夢でも見てるんだろう。ブックマンの治療を受けたから心配はいらないよ。左手ど?」
「調子イイです」
資料を整理しながら話をするコムイの近くの段ボールにアレンと共に座る。
「ブックマンか…不思議な医療道具持ってましたよ」
『ああ、あれ。鍼術って言ってな中国太古から伝わる針治療だ』
「あのおじーちゃんはそれのスゴ腕の使い手♪」
アレンがボーッと資料の山を見ていて、ふと言った感じでコムイに話しかけた。
「………コムイさん。忙しいのにどうしてわざわざ外に出て来たんですか?僕や篠神やリナリーのため…だけじゃないですよね」
アレンをみると酷く真剣な表情をしていた。コムイはゆっくりこちらを振り返った。
「ノアの一族って何ですか?」
そのアレンの一言にシンっと静まり返った。微かに聞こえてくる街の音、人の声。それらが聞こえなくなるくらいにこの場の雰囲気が変わった。
ノアの一族か……もう過去から逃げられねぇよな。もうあの頃とは違う。俺は黒の教団のエクソシスト篠神神月だ。
ふと気配を感じて顔をあげると赤と言うかオレンジのような髪の奴…ラビが忍び込んでいた。
「それをウチらに聞きに来たんさ」
「!!」
「正確にはブックマンのジジイにだけど」
「「((アレ?!いつ入って来たのこの人))」」
段ボールに寄りかかってるラビは一見人懐っこいような笑みを浮かべた。
「ノアは歴史の「裏」にしか語られない無痕の一族の名だ。歴史の分岐点に度々出現してんだが、どの文献や書物にも記されてねェ。そんな不明<アンノウン>が伯爵側に現れた。だからわざわざ来てんしょ、コムイは。この世で唯一裏歴史を記録してるブックマンのトゴえ…」
喋っている途中のラビの言葉が来れたのは、ブックマンが顔に横蹴りをかましたからだ。
まあなんと言うかお変わりなく元気なようで。いつもの事に俺は思わず溜息をついた。
蹴飛ばされたラビは資料の山に突っ込んだ。ブックマンは華麗に着地する。
「しゃべりめが。何度注意すればわかるのだ。ブックマンの情報はブックマンしか口外してはならんつってんだろ」
「「((いつ入ってきたのこの人?!))」」
『毎度のごとくようやるもんで…』
確か俺に初めてあった時もあんなことしてたような気がするんだけど。
ラビは頬を押さえながら笑顔でブックマンを睨み返した。
「いーじゃんよ。オレももうすぐあんたの跡継ぐんだしさぁ」
「お前のようなジュクジュクの未熟者にはまだ継がせんわバァーカ」
「このパンダジジイv」
ひとしきりラビとボケをかまして後にブックマンはアレンをみた。
「アレン・ウォーカー」
「は、はいっ!!」
ビクッと飛び上がったアレン。どうやら恐怖がにじみこまれたようだ。だが、次のブックマンの言葉でアレンは悲痛な顔を浮かべた。
「今は休まれよ。リナ嬢が目覚めればまた動かねばならんのだ。急くでない」
そして、次の瞬間にはアレンとラビをブックマンは締め出した。その後にようやく此方に顔を向けた。
「久しいな篠神」
『どぉーも、ブックマンのジイさん。相変わらずのメイクだな。で、俺を締め出さなかったということは聞きたい事でもあんのか?』
「篠神くんはノアの一族の事…何処まで知ってるのかな?」
問いに答えたのはコムイだった。笑ってはいるが眼鏡に手をかけた事から誤魔化しであることは容易に想像できる。
『ノアの一族に関してはある程度は知ってるけどよ…長子と千年公に口止めされてんだよ。マインドコントロールっつうか…魔術的なあれで。師匠にもクロスにも解けないから俺からノアの一族の事に関して聞き出すのは諦めろ』
「初めて聞いたよそんなこと?!」
『だって言ってなかったもん☆』
なんとも言えない目でブックマンとコムイに見られた。
『しょうがねぇだろ…マインドコントロール解かれてすぐは千年公達のこと聞くだけで吐いてたんだから。これでも口に出来る分マシになってんだよ。確信部分に黙って導いてやることは出来るけど喋ることは出来ない』
「なるほどな…伯爵の支配からは完全には逃れられてないというわけか」
『ま、逃れる為にアイツを殺ろうとしてんだけどな。それに千年公の考えてっことは俺にもノア達でさえもよくわかんねぇんだよ。昔っからなんか…こう不安定と言うか、そんな感じなんだよ』
「不安定?」
『長年そういうことやってたり生きてたりすっといろいろあるもんなんだよコムイ』
「…なんかこういう時は篠神くんが歳上だなぁと感じるよ」
「そうだな。知らないことを出されるとワシもそう思うな」
『うっせぇよ。ブックマンのジイさんより歳上で悪かったな!』
コムイを睨み付けるが逆効果だったらしく、二人に笑われる羽目になった。
畜生、歳上敬えよこの野郎。
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