第45夜 想いと罠
『ちょっと気になる事があるから別行動する。二人ともミランダの事を頼むな』
そう言った篠神は妙に複雑そうな顔をしていた。
あれから3日後。僕とミランダさんは、劇場のチケット販売をしていた。ミランダさんの魔女は雰囲気が出ており、彼女には適役だと思う。何より難しいことがあまりないので失敗がほとんどない。ミランダさんの後ろで大道芸を披露し、客集めをする。
「ピーテル劇場のホラー演劇「カボチャと魔女」は本日公演〜〜ん♪」
「チケットはいかがですか〜?」
ミランダさんが宣伝をしている間、僕は子供達の期待に応え色々な物をジャグリングする。一時するとオーナーである人に呼ばれ、僕達は中に入る。かなり機嫌が良さそうだった。
「わははは、ごくろーさん、ごくろーさん。休憩していいよ。イイよ、君達。チケットの売れ行きも好調だ。売り上げ良かったら正社員にしてあげるよ」
「ホントですか!?」
待ちに待っていた言葉に声が上擦る。ミランダさんが嬉しそうに笑っていて、少しはポジティブになったと思う。
「アレンくん」
「!」
フードを被っているリナリーがドア際におり、ミランダさんに声をかけてリナリーと裏路地で座る。
「どう?この仕事は」
「うまくいったら正社員にしてくれるそうですよ」
「ホント!?」
「アクマもあれから音沙汰ないし…今のうちに決めたいですね。今度こそ……」
「うん、そうね。この三日間ですでに5件クビになっているし…」
「そう言えば篠神から連絡は?」
「昨日の夜からは連絡無いわ。でも、大丈夫よ。篠神は私達の中で一番強いもの。何かあれば連絡をくれるわ」
「そう…ですね。でも、何を調べてるんでしょうか…」
リナリーと喋りながら、玉の上に乗って遊ぶ。マナに教えられたわざを。
「何かに気が付いたからだと思うわ。音とか気配に敏感だから…」
「そう言えば、あのアクマ襲撃の後篠神の様子が少し可笑しかったんですよね……無茶をしてなければいいんですが」
「そうね……篠神を信じるしかないわ。それにしてもアレンくんって大道芸上手だね」
「僕、小さい頃ピエロやってたんですよ。育て親が旅芸人だったんで食べるために色んな芸を叩き込まれました。エクソシストになってそれが活かせるとは思っていませんでしたけど」
「じゃあ色んな国で生活してたんだ。いいなあ」
リナリーが羨ましそうに両手を合わせながら、キラキラした目で此方を見てきた。教団でリナリーが人気な理由が解る気がする、確かに可愛い。
「聞こえはいいですけどジリ貧生活でしたよ〜。リナリーはいつ教団に入ったんですか?」
「私は物心ついた頃にはもう教団にいたの。私と兄さんはね、両親をアクマに殺された孤児で………………私がこの「黒い靴<ダークブーツ>」の適合者だとわかって、ひとり教団に連れていかれたの。唯一の肉親だった兄さんと引き離されて、自由に外にも出してもらえなくて。正直初めはあそこが牢獄のようだった」
「気が触れてしまったか………」
「縛りつけておかないと何をするかわからない」
「絶対死なせるな。外にも出すなよ」
「大事なエクソシストなんだ」
たった一人の兄に会いたいだけだった。それが何故いけないのか分からなかった。食事も喉を通らず、唇は乾ききって身体中傷だらけ。
「…え……し…て。おうち…かえして…」
枯れない涙が頬を伝う。帰ってくる筈のない返事を待ち続ける。だけど、その時だけは違っていた。
「ここがおうちだよ」
懐かしい声に顔を動かすと居る筈のない人がそこに座っていた。最初は夢だと思った。だけど、頭を撫でてくれたその手の温もりは間違いなく本物だった。
「遅くなってごめんね。ただいま。今日から兄さんもこのおうちに住むよ。また一緒に暮らせるね………」
「3年ぶりだった。コムイ兄さんは私のために「科学班室長」の地位について教団に入ってくれたの」
「スゴいなあコムイさん。いつもはアレだけど」
「うん、アレだけどね。だから、私は兄さんのために戦うの」
「兄弟かあ…いいなあ」
コムイさんの意外な一面を知った。あのシスコンぶりは3年間離れていた反動のせいかもしれない。また傍から居なくなったらリナリーが…と思っている可能性もある。
「そう言えば篠神が「アレでも案外良いところあるんだ」とか言ってました。この事だったんですね」
「篠神も私のもう一人の兄さんかなあ。私のことずっと励ましてくれていたの」
「確かに篠神はお兄さんって感じがしますね」
「珍しくアレンくんのこと弟のように可愛がってるしね」
「そうなんですか?」
他の人達もそうだと思っていたのでビックリしてリナリーを見る。
「そうなの。篠神って神田以外の事は……なんていうか冷えてたの」
「冷えてる?」
「うん。表は明るくて人付き合いが良さそうな感じなんだけど……ずっと見てると分かるんだけど、明らかに神田と他の人との接し方が違っていたわ」
「そうですか?僕は元からあまり他人と距離を置きたがっていると感じましたが……」
「……そっか。だから、アレンくん可愛がっているのかも」
「え?」
リナリーに聞き返そうとしたときだった。
「あっ!ねーーーーそこのカボチャァーーーー。「カボチャと魔女」のチケット、何処で買えばいーのぉー?」
先っちょにカボチャがある傘を持った飴を舐めている少女がいつの間にかそこに立っていた。すぐに立ち上がって少女の肩を掴む。
「いらっしゃいませー♪チケットはこちらでーす♪」
「んーー」
「じゃ!リナリー、後半頑張ってきます!」
「生き生きしてるね、がんばって」
リナリーに手を振ってから、少女を案内する。店の前まで来ると人が少しざわついていた。嫌な予感がする。
「何だと!!!売り上げ金をスリに盗られただと!?」
「す、すみません」
「バカヤロウ!!」
騒ぎの中心に居るのがオーナーと座り込んでいるミランダさんだった。
「お嬢ちゃん、ちょっと待ってて」
少女に一声かけてから座り込んでいるミランダさんに駆け寄る。
「ア、アレンくん。ごめんなさい。他のお客さんにチケット売ってるスキに…」
「スリの姿は見ましたか?」
「茶色い上着の長髪の男…あっちへ逃げたわ………」
「リナリー!」
「上から行くわ」
リナリーに声をかけるとすぐに上に飛び上がっていた。カボチャの被り物を外す。
「大丈夫、捕まえてきます」
優しくミランダさんに声をかけてからスリを追い掛け始める。だが、後から思えば篠神が居たらきっとミランダさんを一人にするなと言っていたんじゃないだろうか。狙われていたのはミランダさんだったのに。
リナリーの後を追い掛けて、スリの姿を発見する。壁に追い詰めたときだった。左目が反応したと同時にスリの姿がアクマに変化した。
「しまった…罠だ!!」
アクマは楽しそうに下を出しながら喋った。
「あのメスいただいた。お前らが守っていたメスいただいた。ロード様がいただいた」
「ロード…?」
「お前らの仲間も捕まえた。ロード様が捕まえた」
「まさか……」
「嘘っ…篠神!!」
リナリーの悲痛な叫びが響いた。
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