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第43夜 原因のイノセンス

 


『ミランダ、それ<ゼンマイ>って……あの時計のか?』

「え、ええ」

『そうやって持ち歩くくらい大切なんだな。何か思い入れがあるのか?』



ゆっくりミランダは語ってくれた。
自分が何をやっても駄目な奴で、子供の頃からそれを自覚していたらしい。大人になってもそれは相変わらずで仕事は転職ばかり。「こんなに役立たずな奴とは思わなかった」と言われてクビにされたと。



「リナリーちゃんにも話したんだけどね……私「ありがとう」って言われたことないの。それってね、誰かの役に立てたことがないのよ。「ありがとう」って言われて誰かに私の存在<こと>を認めてもらいたかった………」



そんな時に古道具屋であの古時計に出会ったらしい。店主曰く「先代の店主がどっからか拾ってきたもので。キレイな時計だが、ネジが回らなくて動かない。ウソだと思うならやってみろ」と言われたらしい。役立たずで捨てられる時計は自分を見てるみたいで、ミランダはゼンマイを受け取り回したそうだ。誰がやっても動かせなかった古時計は動いたそうだ。



「誰も動かせなかった古時計の鐘の音は私の心に響いたの。ダメな私の存在<こと>を認めてくれた気がしたの……」

『そっか。なら、大切にしろよ。俺にも存在を認めてくれた奴を大切にする気持ち解るからさ』






「ねぇ、リナリーちゃん」

「何?ミランダ」

「篠神君って何かあるの?」

「あー……かなり色々あるのよ」

『そうそう、実はミランダよりかなり歳上の歳をとらない人間みたいな』

「へぇ………え、篠神君っ!?寝てたんじゃ」

『人の気配が多いと浅い眠りにしかつけねぇからな。だけど、寝ないと体力が……な』



リナリーの隣に腰をかける。睡眠はとらないと身体がヤバイことになる。アレンはティムと時計を見たりしているらしい………は、ちょっ!?



「…スゴイ。リナリー、篠神、見てくださいよコレ!」



俺は既に絶句状態で、アレンが声をかけてようやく二人は振り向いた。アレンは楽しそうに口にした。



「時計人間!」

「「キャーーー!!」」



思わず叫んだ二人に耳を塞ぐ。女の叫び声って耳に悪いよな。慌ててアレンの所に走っていった二人。



「何やってんのアレンくん!?どうなってるのコレ!?」

「ギャアアアアア私の時計ーーーーー!!」
     ・・・・
「この時計触れないんですよ」



アレンはそう言いながら古時計から出てきた。確かにミランダは触っている。俺も立ち上がり、古時計を見る。



「今ちょっと試しに触ろうとしたら………ホラ」



アレンが時計に触ろうとすると中に入り込み別の場所から腕が出た。下でミランダが時計にすりついている。



「わっすり抜けた………!?」

「どうやらこの時計に触れるのは持ち主のミランダさんだけみたいです」

「え!?」

『みたいだな』



俺も試しに触ってみるがアレンと同じようにすり抜けた。



「さっきの「時間の巻き戻し」といい、これといい。やっぱりイノセンスに間違いなさそうですね」

『だろうな。こんな古時計あってたまるかっつうの』

「ほ、本当なの?この時計が街をおかしくしてるだなんて…」



ミランダはハッと気が付いたかのように此方を向いた。何故か手に包丁。思わず俺達は手をあげる。



「ま、まさか壊すとか…?私の友を……」

「「『落ち着いて』」」

「でも、ミランダ。あなた本当に心当たりないの?」

『こいつがイノセンスなら間違いなく時計がこうなった原因がミランダにあるハズだ。思い出してみろ、本当の10月9日だった日のこと』

「……………あの日は……私100回目の失業をした日で…」



ミランダは悩みながらポツポツとその日を口にし始めた。「100!?」と口を出そうとしたアレンをとりあえず叩いた。



「流石に失業回数も3ケタになると感傷もひとおしで…時計の前でやけ酒を飲んでいたわ。毎日…毎日イヤなことばかり前向きなんて何それ……なんかもぉ人生どうでもいいわ……明日なんか来なくていいって」

『まさか……』

「………それじゃないの…?」

「え…?」



うわぁと思い俺は頭を抱える。何余計なことしてんだイノセンス!!!



「イノセンスがミランダさんの願望を叶えちゃったんですよ」

「そ、そんな。私はただ愚痴っていただけで…大体何で時計がそんなことするの!?」

『……お前、まさか……………この時計<イノセンス>の適合者…?』

「エッ、ホントですか?」

「ミランダの願いに反応して奇怪を起こしているならシンクロしているかもしれないわ」

「何?てきごうしゃって?」

『ミランダ時計に奇怪を止めるように言ってみろ!』



こうなるとミランダを本部へ連れて帰らなくちゃいけなくなる。可能性はなきにしもあらずだ。



「時計よ、時計よ。今すぐ時間を元に戻して〜」



瞬間、アレンとリナリーがダッシュで玄関へ走っていき新聞を取り出し広げた。



『どうだ?』

「10月…9日」

「「「『……………』」」」

「もう一度始めから考え直してみよっか…」

『だな……』



深い溜め息を全員がついた。





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あきゅろす。
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