第40夜 ミランダ・ロットー
ボーッとコムイの言ったことを思い出しながら珈琲を飲む。ほんと厄介な任務を俺達に回しやがって。
ティムがリナリーにすり寄っている。なんかリナリーにもなついてるな。
「……なんかコムイさん元気無かったですよね」
「……なんか兄さん…色々心配して働き詰めみたい」
「心配?リナリーの?」
『ぶっ!!』
ポコ!パシッ!
「伯爵の!」
先程の紙を丸めたので俺とアレンを軽く叩いたリナリー。いやだって、アレンの考えが有り得てしまうから流石に吹いた。
「最近伯爵の動向が全くつかめなくなったらしいの。「なんだか嵐の前の静けさみたいで気持ち悪い」ってピリピリしてるのよ」
「伯爵が…」
『つうか、蘇ってから静かすぎるんだよ。いや、35年前は騒がしかったか……まあ、何かの為に行動してるっつう可能性はありだな』
「……篠神、本気で何歳なんですか?」
『数えるの当の昔に止めた。まあ確実に二百年は越えてるぞ』
「「…………」」
見た目が今の神田と変わらないくらいだから信じられないんだろうな。つうか、マジで何歳かわかんねぇし聞くな。
ゾクッ
ガチャーーン
寒気を感じたと同時にアレンがフォークを落とした。そして、アレンと同じ場所に目が行く。肩掛けを頭まで被った迫力満点の女性?がじぃーーーーーっと此方を見ていたのだ。……まて、コイツ。
「?アレンくん、フォーク落ちたよ」
『『あああ!!』』
「はっ!」
「この人ですリナリー!」
俺とアレンは同時に彼女を指した。そこでようやく振り返ったリナリーが彼女の存在に気が付いた。ビクッとなった女性。
その瞬間、有り得ないほど素早く俺達の席の窓を開けて逃げようとした。悪いと思ったが既に外に出ていたので、咄嗟にスカートを掴んだ。落ちそうな俺の腰をアレンが押さえてくれている。
「僕達この街の異常を調べに来たエクソシストなんです!」
「エクソ…シスト…?」
物凄い形相でゼーハー息をしている女性。てか、この人物凄い運動神経だな、おい。マジで一般?俺も流石に疲れたぞ。
『ああ…てか、何で逃げるんだよ』
「しかも窓から…」
「ごめんなさい。何か条件反射で…」
『とりあえず、中で話さねぇか?お前、この街の奇怪気が付いてるんだろ?』
「えっ…貴方達」
『俺達日にちだけで言うと一昨日来たばかりだ…………つうか、話折るけど…もうそろそろ…離したいんだが…離しても……逃げないか?』
女性が頷いたのを確認してから、俺は手を離した。無駄に疲れたじゃねぇかよ!!そのままぐだっていたら、アレンに救出された。
『サンキュ……』
「お疲れ様です篠神」
彼女が店の中に入ってきて、ようやく全員落ち着いて座った。
『とりあえず、自己紹介から。俺は篠神。名前は聞くな。黒の教団って呼ばれる組織のエクソシストをやってる』
「僕はアレン・ウォーカーです。同じくエクソシストをやっています」
「私はリナリー・リー。彼等と同じくエクソシストよ」
店主が電話をかけている。「もしもし、ベルリーニの酒場だが、明日10日までにロゼワイン10樽頼むよ」と口にした。あの奇怪談の電話か。
再び目の前の女性に意識を向けた。彼女は嬉しそうに口を開けた。
「わ、私はミランダ・ロットー。嬉しいわ、この街の異常に気付いた人に会えて…」
ミランダと言うらしい女性は、物凄い隈がある。この奇怪のせいで精神的にキテる…のか?
「誰に話してもバカにされるだけで、ホントもう自殺したいくらい辛かったの。あ、でもウンコは避けられるようになったんだけどね」
「ウンコ?」
(((この人だいぶキテるっぽい)))
ウフフフと笑いを漏らしているミランダは、正直怖いんだが。
「ミス・ミランダ。あなたは街が異常になりはじめてからの記憶があるの?」
「ええ、街のみんなは昨日の10月9日は忘れてしまうみたいだけど。私だけなの…」
少し哀しげに目を伏せた彼女は、それだけが原因では無いはずだ。何か抱えている者がする瞳だ。
まあ、ミランダがアレンの両手首を掴み泣きながら詰め寄る姿に、流石に俺とリナリーは反射的にアレンを避けた。だって、困ってると分かってても怖いんだよ!
「ねぇ助けて、助けてよぉ。私このままじゃノイローゼになっちゃうぅ〜。あなた昨日私を変なのから助けてくれたでしょ。助けたならもっと助けてよーっ!!」
「うわわっ怖いっ!リナリー、篠神助けて!落ち着いて!」
「ミス・ミランダ!助けるからみんなで原因を探しましょう」
涙目で助けを求めてきたアレンだが、俺とリナリーは苦笑いをするだけにした。今のミランダには詰め寄られたくない!
「原因ったって気づいたらずっと10月9日になっていたんだものぉ〜」
『本当の10月9日に何か心当たりはねぇか?』
「その日にきっと何かあったはずよ」
ようやくアレンを離したミランダ。だが、気が付いたようにアレンは客に目を向けた。
げっ数増えてるし。しかも、襲いかかる気満々だな。リナリーはミランダを慰めている。アレンはゆっくり席を立った。
「リナリー、ミランダさんを連れて一瞬で店を出て」
「!」
俺とアレンは目を合わせる。俺も立ち上がり、骨組みを引っ張り出した。
「キミの黒い靴<ダークブーツ>ならアクマを撒いて彼女の家まで行けますね?」
ガタガタっと客が全員立ち上がる。狭い店内にこの数はやりにくいな。
「どうやら彼らも街の人とは違うミランダさんの様子に目をつけ始めたようです」
俺はサイズはそのままに人形<ドール>を発動させた。アレンも発動し、銃刀器型に変化させた。
「なぜミランダさんが他の人達と違い奇怪の影響を受けないのか。それは、きっとミランダさんが原因のイノセンスに接触している人物だからだ!」
『ひゅ〜♪多分それ当たりだぜアレン!』
「え?」
アクマが一斉にコンバートした。レベル2、レベル1の2になりかけがそれぞれ6体ずつ。アクマが攻撃を仕掛けてきた瞬間、リナリーは黒い靴<ダークブーツ>で一瞬で店を出た。俺とアレンは左右別方向に飛び去った。
ゴーン ゴーン ゴーン
何処かの鐘の音が聴こえた気がした。
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