第34夜 忘れられない約束
エレベーターで下りた先に出てきたのは、黒の教団最古のエクソシスト。
『よお、ヘブラスカ』
「神月……」
『ファーストネームで呼ぶな』
「身体は…大丈夫か?」
『全然大丈夫じゃねぇよ。分かりきったこと訊くな。俺はこの戦争が終わるまでもたねぇ……いや、神田やアレン達よりも先に逝くかもしれねぇな』
顔を伏せたヘブラスカ。聖女やら言われているが、俺はそうは思わない。この件に関してだけは、あの糞ルベリエと意見が合う。
「だから…受け入れろ……でないと」
『やだね。お前は俺に死ねって言ってんのかよ。俺の身体はイノセンスを受け入れるようには出来てねぇんだ。本気で俺の心配してるなら、その台詞……
――二度と吐くな』
「神月……」
『ファーストネームで呼ぶな。テメェなんかに呼ばれたくねぇんだよ!!俺が許してるのは……アイツだけだ』
乱暴に上昇ボタンを押した。悲しげなヘブラスカの声は俺の耳まで届かなかった。
上まで着いたエレベーターからフラフラ降りる。壁に寄り掛かるが、ズルズルと床に座ってしまった。
『(……イノセンスを憎むエクソシスト、か。笑えねぇや)』
そのまま膝を抱えて、頭を伏せた。グシャグシャに頭を掻き回す。
『(俺にはあの人が全てだった…あの人が居なければ俺は人になれなかった…なのにっ)』
アイツ等はそれを奪った。あの人の弟子の命でさえ玩んだ。
なあ……俺はどうしたらいい?教団も憎い、千年公も憎い。俺は何処に行けばいい?この憎しみがいつか爆発しないか恐いんだよ。関係無い人まで巻き込みそうで、俺は俺が恐い。なんで、俺は教団に拘ってるんだよ……
「なあ神月。いつかさ、師匠と彼女と俺とお前、4人で満開の蓮華を観に行こうな。神月が感動できるくらい美しいって思える風景に連れていってやるからな」
『……約束?』
「あぁ、約束。だから、神月。お前は何があっても一人じゃないからな。俺達は、いつでも傍に居るからな」
『ははっ…俺もユウのこと笑えねぇし……一番拘ってんの俺じゃねぇか………』
ずっと昔の約束。もう叶う事のない約束。
アイツが『あの人』に拘るように、俺はアイツに拘っている。真実を知ったときアイツはきっと……俺を恨むだろうな。
俺は一時その場から動けなかった。
(俺は…所詮道化の人形だ)
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