第22夜 土翁と空夜のアリア
〔いいねぇ青い空。エメラルドグリーンの海。ベルファヴォーレイタリアン♪〕
「『だから何だ』」
〔「何だ」?フフン♪羨ましいんだいちくしょーめっ。アクマ退治の報告からもう三日!何してんのさ!!ボクなんかみんなにコキ使われて外にも出れない、まるでお城に幽閉されたプリンセ…「わめくな、うるせーな」
『どーせ逃げ出して仕事溜めたんだろうが。自業自得だな。それに何してるかの答えは、俺が話してること不思議に思え馬鹿』
〔……篠神君、大丈夫かい?〕
『大丈夫だったら三日も昏睡状態なんぞにならねぇっつうの』
〔無茶は駄目だよ、篠神君。一時任務には出さないからね〕
『げっ、任務無かったら暇だっつうの』
目覚めたばかりの俺は神田とコムイ宛に通信をしていた。
アイツ仕事サボってやがる。
〔それはいいとして、アレン君は?〕
「つか、コムイ!俺、アイツと合わねぇ」
〔神田くんは篠神君以外と誰とも会わないじゃないの。で、アレン君は?〕
『アレンと神田、息ぴったりだったけどな』
「黙れ篠神」
『あ、そう言えばグゾルとララどうなった?』
「丁度今朝亡くなった。人形も奴が壊し、モヤシがイノセンスを預かった」
『……そっか、ララもグゾルも亡くなったんだな。二人が望んだ結末だもんな…』
「二人からお前宛に手紙を預かった」
『え』
「早く受けとれ」
俺は神田に渡された紙を恐る恐る開いた。
「直接お礼を言いたかったが、目覚めるまでに私の命は尽きそうだ
だから文字に残した
私とララを助けてくれてありがとう
グゾル
私の願い聞いてくれてありがとう
ララ」
下手くそな文字で書かれていた。それでも、俺の心は満たされた。
二人の最後はきっと幸せだっただろう。それを想うだけで心が癒された。
「即席でトマが教えただけだからな」
『……こんなもの貰えるなら救ったかいがあるよ。…………お休み、グゾル、ララ』
神田は何も言わず、頭の包帯がズレない程度に撫でてくれた。
〔君達、ボクの事忘れてない?〕
「『空気読め』」
喚くコムイに俺と神田は頭を抱えた。
さっきまでの雰囲気返せ。
「で、何のようだ。イタ電なら切るぞ、コラ」
〔ぎゃーーーちょっとリーバーくん聞いた!?今の辛辣な言葉!!〕〔は?〕
『何の用件だよ?』
〔もう、違いますぅー神田君の次の任務の話。篠神君は勿論療養で任務停止ね〕
『へーい』
〔珍しくすぐ頷いたよ!神田君〕
「それだけ無茶したからな」
『体力、気力が全然回復してないんだよ。体がすげぇ重てぇ……』
〔篠神君、君が本気なんて珍しい……〕
『黙れ、真剣でわりぃかよ』
〔神田君、アレン君に篠神君見張るように重々言っておいて。篠神君、君の身体は弱くなってきてるから無茶は駄目だからね〕
「分かってる」
『流石に言われなくても大丈夫だっつうの』
〔それに今回のケガは時間かかったね、神田くん〕
「でも治った」
〔でも時間がかかってきたってことはガタが来始めてるってことだ。計り間違えちゃいけないよ、キミの命の残量をね…〕
「……」
『で、コムイ。神田に任務の話は?』
〔あ〕
「『馬鹿か』」
「何寝てんだ」
「!」
体操座りで顔を下げているアレン。顔をあげる様子はない。
「あれ…?全治5ヶ月の人がなんでこんな所にいるんですか?」
「治った」
「ウソでしょ…」
「うるせェ」
俺は立つのが限界でその場に腰を下ろした。神田は俺の隣に腰を下ろした。
『ホントだよ、アレン』
「篠神…?」
『ついさっき起きたんだよ。お陰で体力気力全くない』
「目覚めたなら良かったです」
「コムイからの伝達だ。俺はこのまま次の任務に行く。お前と篠神は本部にイノセンスを届けろ」
「……分かりました」
顔を上げようとしないアレンに神田が気にするようにアレンを見る。
「二人は約束は果たせたんだろ」
「グゾルさんとララは……アクマや僕達が来なければ、もっと長く居られました……」
「甘いな、お前は」
神田は微かに思い詰めたように、前を向く。
「俺達は「破壊者」だ。「救済者」じゃないんだぜ」
そこでようやくアレンは顔を上げた。それは酷く辛そうな顔で。
「…………わかってますよ。でも、僕は…」
アレンは言葉を止めた。一時してから、言葉を紡いだ。
「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」
「……好きにしろ」
『アレーン。1つ言いたいことがある』
「はい?」
俺は立ち上がって遠慮なしに思いっきり無防備のアレンを殴った。流石の神田も焦ったのか立ち上がる。アレンはポカンとして俺を見る。
『テメェは馬鹿か!!!』
「「!?」」
『自分を犠牲にして他人を助けるだぁ!?自分を守れねェ奴に他人を守れるかっ!!!あ゛ぁ!!俺は神田みたいに厳しすぎるのは好きじゃねぇが、テメェみたいに自己犠牲で満足する奴が一番嫌いだ!!!』
「…………篠神」
『少しは…俺を頼れって……もう他人じゃねぇんだ。仲間…だろ?頼むから……自ら死のうとするなよ……』
「…す……すみませんでした、篠神」
『次やったら拳で殴るだけじゃすまさねぇからな、ア レ ン く ん』
「は、ハイ!!」
めちゃくちゃ笑顔で言ってやったら引かれた。俺は可笑しくなって笑った。そのままアレンの隣に腰を下ろし、アレンの髪をグシャグシャに撫でた。
(少しでも仲間が死ぬのは見たくない……あの時みたいな事は嫌なんだ)
第二章 土翁と空夜のアリアFin.
NEXTSTAGE 第三章 壊滅未遂事件といつもの姿
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