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第19夜 奇襲と怒り

 


主が死ぬまで一緒にいたいと願う人形
自分が死ぬ時人形を壊したいと願う主

そんな願いも簡単には叶わない世の中は残酷だと思う。



「俺達は何の為にここに来た!?」



息切れをしなから言葉を吐き出した神田。アレンは少し考えたかのように間を置き口を開いた。



「……と、取れません。ごめん、僕は取りたくない」



神田はアレンの団服を本人に投げつけた。

借りててそれはいけねぇだろよ、ユウ君。



「その団服<コート>はケガ人の枕にするもをじゃねぇんだよ……!!エクソシストが着るものだ!!!」



アレンは投げ付けられた団服を見つめる。その目は迷いを浮かべていた。

神田は団服を着るとアレンの隣を通りすぎながら一言口にする。



「犠牲があるから救いがあんだよ、新人」



アレンはその一言に目を見開く。

まさか、アレン馬鹿なこと言わねぇよな!?



「お願い、奪わないで…」

「やめてくれ…」



神田はグゾルとララに六幻を突き付ける。が、アレンが二人の間に割って入った。



「じゃあ僕がなりますよ」

『アレンっ!!!』

「僕がこの二人の「犠牲」になればいいですか?」

『馬鹿なことを言うんじゃねぇ!!バ神田の話なんかきくな!!』

「テメェ……」

「……ただ自分達の望む最後を迎えたがっているだけなんです。それまでこの人形からイノセンスは取りません!僕が…アクマを破壊すれば問題ないでしょう!?」



アレンの瞳の意志はとても強かった。それは16歳の少年がする瞳では無かった。



「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて虚しいだけですよ!」



それを聞いた神田はアレンを殴った。

……とりあえず後で絶対に神田殴ろう。

アレンは反動で倒れ、神田は出血のためかフラつき膝をつく。



「神田殿!!」

「とんだ甘さだなおい……可哀想なら他人の為に自分を切り売りにするってか……?」



それは生き延びてあの人に会いたい神田の強い意志。アレンはきっと違う。自分のせいできっと誰かを失った。それを他人にもあじわあせたくないだけ。



「テメェに大事なものは無いのかよ!!!」

「大事なものは……昔失くした」



そう言ったアレンの言葉は酷く哀しみに満ちていた。



「可哀想とかそんなキレイな理由、あまり持ってないよ。自分がただそういうトコ見たくないだけ。それだけだ。僕はちっぽけな人間だから大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません」



急に走った悪寒に俺はララとグゾルの傍に人形<ドール>と共に走る。



「守れるなら守りたい!」



神田とアレンが見つめあった瞬間だった。俺はララとグゾルの手を掴もうとして二人の間を通り抜ける。その時にようやくアレンと神田が俺を見る。



「「!」」

「グゾル……」



ララとグゾルの腹を突き破ったのは鉤爪。俺の手は後一歩間に合わず空を切った。そのまま救い出す暇もなくララとグゾルは砂の中に引寄せられた。

アレンも伸ばした手は届かなかった。



「奴だ!!」

『馬鹿二人!!ここは戦場だぞっ!!!状況忘れて喧嘩すんじゃねぇよ!!!』

「「う゛……」」



次の瞬間、真後ろの砂場から何かが飛び出す。神田が六幻を構える。俺は飛び出してきたアクマを人形<ドール>で突き飛ばした。



「篠神!?」

『人形<ドール>ララとグゾルを連れてこいっ!!!』



騎士<ナイト>の姿をしている人間サイズの人形<ドール>は、間一髪でイノセンスを抜かれなかったララと、腹に穴が開いたグゾルを連れて俺のところに戻ってきた。



『くそっ!!しっかりしろグゾル!!!』

「グ……ゾル?」

「ラ…ララ……ララ…」



ララは多少壊れたから声と動きはぎこちなかった。それでもその瞳はしっかりグゾルを見つめ、手は必死にグゾルの方へ伸ばされていた。

次の瞬間だった。場の空気が急に変わった。その方向に居たのはアレンだった。アレンと対アクマ武器である左腕が変型し始めていた。



「許さない……絶対に許さない」



声音が酷いくらいの怒りに満ちていた。



「ウォ…ウォーカー殿の対アクマ武器が……」

「造り変えるつもりだ。寄生型の適合者は感情で武器を操る。宿主の怒りにイノセンスが反応してやがんだ」

『普段のアレンからじゃ信じらんねぇくらいの禍々しい殺気だな……』



武器がその怒りを形にしているかのように蠢く。グゾルの瞳から涙が零れた瞬間だった。アレンはアクマの前に飛び出した。



「バカ!まだ武器の造形が出来ていないのに…」

『違うぜ……神田。あれで出来てる』



アレンは新しくなった対アクマ武器でアクマを撃った。





(殺気に混じって微かにアレンから俺の大嫌いなノアの気配がした)


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