第18夜 人形として
「大丈夫ですか?篠神殿」
『…大丈夫なら…倒れてねぇよ…』
「篠神は無理しすぎです」
『…悪ぃ……持病でな』
先程より発作が落ち着いた為、寄り掛かって座っている。アレンはララ達の話を聞くためキチンと座っている。神田は気絶しており、手当てされて寝かせていてトマはその神田を見ている。ララは座っているグゾルの足の間に座っていた。
ようやく多少落ち着いた所で、ララが話を始めた。
「昔、ひとりの人間の子供がマテールで泣いていたの。その子は村の人間から迫害されて、亡霊が住むと噂されていたこの都市に捨てられた―――」
静かなマテールの街に微かに響いた泣き声。それを頼りに泣き声の方へいくと、一人で泣いている子供が居た。
「ひっく、ひっく、ひっく…」
私は嬉しくなった。その子供の元へ足を走らせた。当時の私は髪もボサボサであちこち壊れてボロボロであり、怖がられても仕方無いような格好だった。
「にんげん…にんげん、にんげん、にんげんだ…」
私は子供の前に立ちはだかった。
「ぼうや…歌はいかが…?」
マテールの民が去って五百年…人間が迷い込むのは別にこれが初めてではなかった。確かこの子供で6人目…5人は私が「歌はいかが?」と聞くと突然襲いかかってきた。
「化物」―――
そう言って私を叩きのめして。私は「歌はいかが?」と聞いたのに。
だから目の前のこの子供も私を受け入れてくれなかったら、殺すつもりだった。5人のように…
手を動かすとビキビキとなる腕。昔はそんな使い方を知らなかった綺麗だった筈の手。
私は人間に造られた人形
人間の為に動くのが存在理由
歌わせて!!!
子供は泣きながら顔を上げた。その顔は酷かった。だけど、確かに子供は笑った。
「うた?ぼくのために歌ってくれるの……?誰もそんなことしてくれなかったよ」
私の中の殺意が消え、驚きと嬉しさが込み上げてきた。
「ぼくグゾルっていうの…歌って亡霊さん」
「――あの日から80年…グゾルはずっと私といてくれた」
その500年の中のたった80年がララにとっては一番大切な思い出なんだ。
アレンもトマもしんみりした空気でララの話を聞いていた。
「グゾルはねもうすぐ動かなくなるの…心臓の音がどんどん小さくなっているもの」
ひと置きおいてララは願いを口にした。
「最後まで一緒にいさせて。グゾルが死んだら私はもうどうだっていい。この五百年で人形の私を受け入れてくれたのはグゾルだけだった」
切ないララの叫び。
俺には痛いほどララの言葉が分かる。受け入れて貰えない辛さは痛いほど。ようやく受け入れてくれる人がいて、その人の最後まで見たいと願うのが何が悪い。
ララは力強く、切なく、哀しい事を口にした。
「最後まで人形として動かさせて!お願い」
横に居たアレンを見るとまるでララの気持ちが分かるかのように哀しい瞳と何かが混じっていた。見たことがある瞳に写し出された感情。
アレンは……大切な人を失ったのだろうか。
そんなアレンとララの気持ちを彼はズバッと切り捨てた。
「ダメだ」
『神田!?』
「その老人が死ぬのを待てだと…?」
「!」
アレンも神田が起きた事に気がつき後ろを振り替える。
「こんな状況でそんな願いは聞いてられない…っ。俺達はイノセンスを守るためにここに来たんだ!!」
正しいんだ。間違いなく神田の言っている事は正しい。だけど、それは、アレンやララ、グゾルにとっては辛い選択。
どちらとも悪いなんていう選択肢ではない。
「今すぐその人形の心臓を取れ!!」
「!?」
(神田ごめん。俺は………ララを助けたい)
(静かに俺は人形<ドール>を発動させた)
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