03.偽りと決意 「やあ、目が覚めたかい?」 「ルルから全て話は聞いた。手当て感謝する」 「こら、ガイは歳上だぞリオン」 わざとらしく頭を小突く。軽く睨まれた。 多少は兄弟らしくしてないと気付かれると多少の避難の視線を送れば、フンッと笑われた。 「構わないよ。ルルーシュの弟なんだってな。俺はガイ・セシル。このファブレ公爵家の使用人だ」 「僕はリオン……ランペルージだ」 「リオンか、よろしくな」 相変わらずの爽やかな笑顔でリオンと握手をするガイに、苦笑いをする。俺の周りにこんな奴は居なかった。 「そう言えば、ルルーシュは旦那様に用事があったんじゃないのか?」 「リオンが寝てる間に話しはしてきたよ。ナタリア姫には使いを送らせた」 「相変わらず仕事は早いな」 「早く済ませてリオンの傍に居たかったんだよ」 明らかに嘘をつくなという視線がリオンから突き刺さるが、なかったことにする。 「ルークも随分心配してたぞ」 「その当人はどうした?」 「ヴァン謡将が来てると聞いてすっ飛んでいったよ」 「なるほどな」 思わず溜め息をつく。しかし、このタイミングでヴァン・グランツか。どうもアイツは苦手だ。此方にどうせ来るだろうと思い、眉を潜めた。 「そう言えば、ルルーシュはヴァン謡将が苦手だったな」 「俺はあの人は苦手だ。何を考えてるか全く読めない。表面と考えていることがまるで違う気がして…な」 リオンに視線を送る。それだけで察したリオンは軽く頷いた。ガイは僅かに俯いたが、すぐに取り繕った。その後リオンも交えて話をし始めた。その間に俺はある気が付いた。俺のアドリブの話に分からないほど自然に話を合わせていた。コイツは察しが良い。余計な苦労をしなくてすむ。一時してから、ノックが聞こえた。 「噂をすれば影とやら、だな」 ガイが扉を開けるとそこに居たのは、ヴァン・グランツとルークだった。 「久しいなルルーシュ」 「お久し振りです、ヴァン謡将殿」 わざとらしいくらいに笑顔で答えた。完璧な探り合いをしているのは向こうも気が付いている。ヴァン・グランツの目はリオンに向いた。 「貴公がルルーシュの兄弟か?」 「リオン・ランペルージと申します」 俺の階級呼びだけで、リオンは敬語を使った。コイツは本当にあの馬鹿達以上に頭が回って助かる。 「少しは話は聞いてると思うが、私は信託の盾騎士団主席総長ヴァン・グランツ謡将だ」 「すっげーホントにルルーシュにソックリだな」 ルークが俺とリオンを見比べている。微かにリオンが眉を潜めた。 「リオン、彼がお前を見つけたルークだ」 「ルーク・フォン・ファブレだ。感謝しろよな」 明らかにリオンがイラッとしたのが分かった。誰か似た知り合いが居たのか、ルークの性格が嫌いなのか。いや、多分両方だろう。リオンの性格にはルークは合わないらしい。 「見付けてくれた事には感謝する。お陰で兄のルルと出逢えたのだからな」 「そう言えば、リオンは剣を持っていたよな?扱えるのか?」 「そこら辺の奴等には負けない程度には扱える」 いや、俺が聞いた話とリオンの歳に合わない身体付きと手からしたら、相当な使い手の筈だ。それこそスザクや星刻と対等にやれるくらいの。 「何謙遜してるんだよリオン。お前俺より全然強いじゃないか」 「そうか?」 「ルルーシュにそこまで言わせるとは、是非ご手合わせ願いたいものだ」 「俺も手合わせしたいな」 「それをするには、まず怪我を治してからだ。な、リオン」 「そうだな」 平然と話をしているが、ヴァン・グランツの視線が痛い。それはリオンにも向けられている。驚いたような、興味深そうな好機の瞳。 俺達の何かがヴァン・グランツは気になっている? 考えつくのは本人達ですら驚く程の容姿の酷似。それに俺達は突然現れた事。いや、これに関してはすぐに取り繕った。それに調べられても俺の情報は全く得られなかった筈だ。 容姿の酷似で思い付くのは、前に一度グランコクマの図書館で見た本の「バルフォア博士」と「ネイス博士」の「フォミクリー」という音機関。フォミクリーを使った人にソックリな人間「レプリカ」を作り出す技術。後に、禁術とされ今は使われていない筈だ。 ヴァン・グランツの反応からして無関係ではない確率が高い。 それにコイツの目は…………ゼロレクイエム以前のゼロの俺と同じだ。危険すぎる。 バンッ!!ガンッ!! と突然開いた扉。ヴァン・グランツがドアにぶつかって悶絶していた。ナイスなタイミングで登場したのは、今俺がいる国の姫で、俺を拾った人物。 「ルルーシュ!貴方の弟が大怪我をした状態で見つかったと聞きましたわ!大丈夫ですの!?」 「ナタリア姫、グランツ謡将にドアが当たって悶絶していますが」 「そんなことはどうでも良いですわ!」 仮にもローレライ教団の信託の盾騎士団の主席総長に全力でドアをぶつけておいてそれは無いと思うが。良い気味だと思ったので、無視をする。 だが、俺はある違和感を感じる。真っ先にナタリア姫を怒りそうなルークが何も言わなかった。軽くルークに視線を移して言葉を失う。蔑むような、哀れむような、哀しい顔でヴァン・グランツを見ていた。それは普段のルークからでは考えられないくらい纏う雰囲気が違った。微かな俺の視線に気が付いたのか、次の瞬間には普通のルークでヴァン・グランツに駆け寄っていた。 今聞いても無駄だと判断した俺は後回しにし、ナタリア姫に向き直る。 「大怪我はしていましたが、大事ないようです。すみません、すぐに城に戻るつもりでしたが」 「構いませんわ。大切な家族なんでしょう?大事ないようで何よりですわ」 「ありがとうございます。リオン、この方は――」「自分で自己紹介させてください、ルルーシュ」 「はい、失礼しました」 「私はナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申しますわ」 「このキムラスカ王国の王女様だ。怪我をしていた俺を拾い雇ってくれた恩人でもある」 リオンが微かに驚いていた。流石に次期女王が来たというのにはビックリしていた。すぐに体勢を直ろうとしたが、傷が痛んだらしく苦痛に顔を歪める。ナタリア姫は、優しい手つきで直ろうとしたリオンの肩に触れた。 「そのままで構いません。大怪我をしていたならば、完全には治っていないのでしょう?」 「すみません。私はリオン・ランペルージ、兄のルルを助けて頂き感謝します」 「リオン、ですね。大事なくて何よりですわ。ルルーシュは、全く自らの事は話してくださいませんから弟がいるなど知りませんでした」 「すみません、弟が行方不明なんて言ったらまた迷惑をかけるかと」 「まぁ、私はあれほど気にするなと申した筈です!少しは私を頼りなさいませ、貴方もこの国の大切な民の一人なのですから」 「ありがたいお言葉ですナタリア姫」 ナタリア姫は、理想の王だと俺は痛感させられる。民を思う姿は、俺が狂わせ殺したあの凛々しく優しかった美しい桃色の髪の彼女を思い出させた。ナタリア姫は夢を実現させて欲しいと願う俺の心は、あの時の罪滅ぼしなのかもしれない。 トリガーを弾き、響く銃声。驚きに満ちた彼女の顔。胸を染める赤。最後に聞いた彼女の俺を呼ぶ名前。 一気に死んだ人達の忘れられない事を思い出し、俺は傷跡がある場所を強く握りしめた。 弟として偽らせたリオン。 俺を助けだし死んだ偽りだが、本当の弟にだったアイツ。俺の中に強い意志が根付いた。 リオンは俺が守る。 その想いを強く心に刻み付け俺はナタリア姫達との話に戻った。 NEXT [*前へ][次へ#] [戻る] |