47.ランバルディアの養子候補 ――数日後 「只今戻りましたナタリア姫」 「お帰りなさいませルルーシュ」 ナタリア姫の私室に顔を出すと相変わらず真面目に執務をしている彼女に思わず苦笑する。積まれている資料の中から俺が出来そうなのを引き抜く。 「手伝いますよ」 「ありがとうございますルルーシュ。やはり貴方がいた方が助かりますわ」 「ありがたきお言葉。休ませて貰った分働きます。ああ、後でナタリア姫に紹介したい人がいるのですが」 「構いませんが…誰ですの?貴方の知り合いでしょうが…」 キョトンとしているナタリア姫に苦笑する。警戒されていないのはそれだけ俺を信用していると言うことだろう。 「私の親友と友人です。今はリオンの付き添いのもと、陛下に謁見しております。終わり次第此方に来るかと」 「まあそれは楽しみですわ。ならば、来るまでに終わらせましょう。折角です、お茶をしながらお話ししたいですわ」 「承知致しました」 「後、ルルーシュ。いい加減、二人の時ぐらいは敬語を抜かしていただけませんの?」 「それはどういう立場でのお願いですか?それとも命令ですか?」 「友人としてのお願いです」 自信満々に言ったナタリア姫に思わず吹き出した。相変わらずこの人は殿下らしくないと言うか、殿下らしいというか。 「笑わないで下さいませ!」 「すみません、つい。分かったよ、ナタリア」 「よろしい」 嬉しそうに執務の続きを始めたナタリア姫に、少しだけユフィと重なる。なるべくならこの人は巻き込みたくないな……。 机に座って執務をしながら、傷跡の上を強く掴んだ。 集中してやるとそう多いものではなかった。生徒会の時の方が大変だった気がするのは気のせいであって欲しい。 「後は持って行くだけか…」 「ええ、そうですわね。先にお茶にしましょうルルーシュ」 「そうだな」 ナタリア姫がメイドを呼んでお願いをした直後だった。すぐにまたノックが聴こえる。 「ナタリア様、リオンです」 「入って下さいまし」 ドアを開け一礼したリオンの後ろからスザクとカレンが入ってきた。三人が前に来てから俺は立ち上がって、傍に立つ。 「先ずは此方が親友兼幼馴染みのスザクです」 「お初にお目にかかります。自分はスザク=クルルギと申します」 「此方の彼女が友人のカレンです」 「カレン・コウヅキと申します」 「スザクとカレンですわね。私がナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアです。さ、お座りになって」 「ルル、陛下が一緒に来て欲しいと」 「陛下が?分かった。ナタリア姫、私は謁見してきます。スザク、カレン。くれぐれも余計なことは言うなよ」 「「分かってる(わ)よ」」 「では失礼しますナタリア姫」 エミリオと部屋をすぐに出る。多分あの事だろう。 「陛下は私室に来いと」 「多分ルークから聴いたことだろうな」 すぐに陛下の私室に向かう。部屋の前まで来てノックをするとすぐに応答があり、中に入った。座るように促されエミリオと椅子に座った。 「実はな、ルルーシュを私の養子にしたらどうかと言う話が出ておる」 「な?!」 「恐れ多い話です……が、陛下はどうされたいのですか?」 エミリオは驚いていたが、俺は真っ直ぐに陛下を見る。試させて貰うぞ、ランバルディア王家の力量を。 普段の仮面は消し、ゼロとして彼を見る。陛下は気が付いたのか目線が少し泳いだ。 「わ、私は……ルルーシュが王家に来て欲しいと思うが」 「ほお…何故かお聞きしてもよろしいですか?故郷や正体を深くは明かさない私みたいな怪しい者を王家に入れるなど、私からしてみれば有り得ない話ですがね。私が王家を乗っ取りたいが為にやっているとは思われないのか?」 エミリオからの視線が痛いがこの際無視だ。陛下がたじろいで悩んでいたがやがて真っ直ぐ此方を見てきた。 「この事を一番最初に提案してきたのはナタリアなのだ」 「なっ、ナタリア姫が?!」 いちよう驚いた振りをしておこう。代々予測はしていたから、さして驚く事態ではない。 「私が理由を訊くとナタリアはこうも言っていた。礼儀作法から王家の尊厳や居る意味、広い視野に考えが早い頭の回転率に、頭の良さ。全て他の人より知り、抜けていると。自らよりも王族らしい人と言っておった」 「ナタリア姫が……」 「ナタリアがここまで気にかけた人はルーク以来なのだ。第一王位継承権はやれまいが……ナタリアをこれからも支えてやってくれないか?勿論、弟のリオンにも配慮はする。どうだ?」 「ナタリア姫は私を買い被りすぎですよ。私はそこまでの力量はありません。ただのチェスが好きな一般人……ですが、嬉しいと思います。私にはリオンと彼等しか居ませんでしたから」 急にバンッと音が聞こえて振り向くと仁王立ちしているナタリア姫がいた。だがら、お前は何度部屋はノックしろと言えば分かるんだ! 溜め息をつくカレンは未だしも、申し訳なさそうに入ってくるスザクに逆に謝りたくなった。 「そんなことありませんわ!ルルーシュが優秀なのは最早キムラスカの王家にとどまらず、軍や貴族も認めています」 「……ナタリア姫。とりあえず、ノックして入って来て下さい(髭が居る時はノックしなくても構わないが)」 「あ…普段から言われているのに私ったら……」 丁寧にドアを閉めて、此方まで来たナタリア姫も椅子に座った。スザクは癖なのか俺の後ろに着いた。カレンもそれに習っている。 「お二人から訊き出しましたわ。御両親に捨てられたことも、特殊な村で育ったことも。ルルーシュが無害で優秀なのは知っておりますわ。私は貴方が誰よりも諭しく、理性的であるかを知っておりますわ。何より私の傍に居た一年こそが貴方が危険でない事の証明ですもの」 「ナタリアもこう言っておる。どうだ?ルルーシュ」 「……1日考えさせてください」 「分かった。明日のこの時間にリオンと共に謁見の間にて答えを訊かせて貰う」 「承知致しました。では失礼します。リオン、スザク、カレン行くぞ」 「ああ」 「「承知」」 ドアに向かいながらランバルディア親子に見られないように俺は笑った。 NEXT [*前へ][次へ#] [戻る] |