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36.「未来」を見続ける者

 

あれから俺は、ユーリ達と別れ単独で街に帰っていた。歩きながら気付かせるために何度かシンクに連絡を入れる。一時すると向こうから連絡が来た。



『ごめんっ、ちょっと髭がウザくて!』

「……いちよう元仲間だったよな?シンク」

『あれは髭で良いよ。27の癖に老けてるから』

「…確かに老けてるな」



そういえば、ルークとアッシュが髭は年齢より老けているとか言っていたな。あれが師匠で複雑だとも。



「ま、まあいい。信託の盾を出るまでは疑われない方がいいからな」

『……アンタは怒らないんだね』

「シンクは有能だ。出れないのにはそれなりの訳がある、違うか?」

『わかってるじゃん。やっぱりアンタ最高』

「少しくらい名前で呼んで欲しいな、シンク」

『う゛……えっと』



どうやら照れてるらしいシンクに思わず笑う。なんだ、可愛いところもあるじゃないか。



「ゼロの時以外は好きに呼べ。俺はよっぽど変なのじゃない限りは嫌とは言わないさ」

『じゃ、じゃあさ………兄さん、とか?』

――兄さん!

「っ?!」


俺の偽の弟、ナナリーの居場所を取った男、俺の命を救った……弟。ロロ、お前はこの世界には居ないのか?それぞれの世界で死んだ者が多く集まるこの世界に。
複雑すぎるその想いに俺は答えてやれなかった。ナナリーしか見えていなかったあの時の俺には。今なら分かる。ロロとの時間もけして無駄ではなかったことくらい。あの偽りの時間にも確かに俺は幸せを感じたことがあったのだから。



「わけは……時間がある時に話す。だから……その『兄さん』という呼び方は止してくれ。アイツを思い出すから………」

『?…わけあり、ね。わかったよ。考えるのも面倒だしルルーシュでいいや』

「すまない…」

『謝られても困るんだけど。なんかトラウマみたいなの引っくり返しちゃったみたいだし、気にしないでよ。それより、用があるんじゃないの?ルルーシュ』



それ以上の探りを入れてこないシンクに感謝しつつ、俺は用を思い出す。



「信託の盾騎士団に所属しているアスベル・ラントという奴を知ってるか?」

『アスベル・ラント?ああ、あの赤毛の奴?』

「知っているのか?!」

『確か今年のレムガーデン・レム・1日にヴァンが急に連れてきたんだ』

「そういえばスザクもその日だったとか言ってたな」

『んで、なんか急に側近にするとか言って、計画の仲間入り。普段は表で仕事はしてないよ、裏の特務師団員ってところかな』

「そうか……可能性はあり、か。分かった、助かるよシンク」

『い、良いよ!アンタ……ルルーシュの為だし、ボクがルルーシュに着いていくって言ったんだから、協力は惜しまないよ』

「ありがとう、これからも頼むシンク。また連絡するよ」

『あ、うん。また…ね』



切れた後にふと思った。ロロは未だしも、エミリオと言い、シンクといい、アリエッタといい、ルークといい、俺は年下になつかれやすいのか……。
全く……俺は死んでから少しばかり甘くなったらしい。だいたい初対面の奴らに最初から正体をバラすなど俺らしくもない。だが、前の黒の騎士団や生徒会に居たときのような雰囲気で、妙に懐かしかった。

一人で苦笑いをしながらアッシュに連絡をする。出ないかと思ったが一発で出た。



『ルルーシュか?』

「ああ、今大丈夫か?」

『大丈夫だ。ルークと一緒だからな』

「またサボりか?特務師団長」

『うるせぇ『あ、よしっ割り込めたぜ!』

『てめっ、傍に居るから聴こえるだろうが!』

『そしたら俺がルルーシュと話出来ねーじゃん!アッシュだけズリーよ!』



被験者とレプリカの壁はもうなく、兄弟喧嘩に聴こえる会話。何故だか楽しそうな声に思わず笑う。



「先に本題に入って良いか?」

『あ、わりぃ。どうぞ』

「この際どちらでも良い。前の旅でアスベル・ラントと言う赤毛の青年に覚えはあるか?」

『アスベル・ラント?俺は記憶にねぇけど……アッシュは?』

『知らん。第一、赤毛はキムラスカ王族の関係者の証だ。金髪のナタリアは例外として、アスベル・ラントなんて親族聴いたことはねぇ。有り得ねぇな……お前らのような異世界の奴ら以外では』

「やはり、アイツもか。不味いな……今異世界から来ている奴らは相当な実力者ばかりが集まっている。ヴァン・グランツの方に回られると面倒だ。それに俺達が来たのはユリアの願いと聖なる炎の光であるアッシュとルークを助けるためにある。元の世界に帰らせる為にはそれを達成しなければならない。それをアイツは知らない」

『それどころか…』

「ああ、俺達みたいな異世界の者が居るのがヴァン・グランツに知られてる可能性がある。ヴァン・グランツに知られてるとなるとゼロスは表に出さない所か信託の盾に見付かるのすら不味い。ユーリは未だしも、俺とリオンは既に目をつけられているだろうな。預言を壊すのが目的なら俺達を利用する気か……いや、リオンはそうであっても俺は既に敵として見られているな」



敵に知られていないのが前提で話を進めていたからな。少し作戦を早送りにしなければ。まあ既に条件はクリアされているが、もう少しだけ慎重にやるか。



『大丈夫なんだろうな?』

「当たり前だ、抜かりは一切ない。知られた場合も考えていたからな。それにアイツは俺達をなめている。ルークは所詮レプリカで己に依存している人形だと、アッシュは手駒だと、俺は弱いと。だが、お前らは違う」

『俺はもう師匠が居なくても生きれる!生きていること自体に意味があるって皆に気付かせてもらったから』

『俺はアッシュでありルークでもある。だが、俺は俺だ。ルークとは違う。アイツは、ヴァンはいらねぇ!』

「そうだ!その意志こそヴァン・グランツが気付いていないものだ。俺達の最大の強みだ!」



人一人の強さや意志はよく知っている。不幸に抗う人を、未来を求め続ける人を。彼らが教えてくれた俺が目指し続ける理想は、絶対に消えはしない。



「やるぞ!ルーク、アッシュ」

『『ああ!』』



ヴァン・グランツ。
シャルルと似た「過去」に縛られ続ける奴。

預言。
「未来」を縛り続ける過去の残像。

オールドラント。
預言に未来を消されようとしている世界。

ユリア・ジュエ。
「未来」を願った優しき英雄。

ルーク。
レプリカでも同じ一人の人間として生き、犠牲を出しても背けず未来を見ている奴。

アッシュ。
レプリカに居場所を取られても強い意志を持ち続け、ナタリア姫との約束が果たせる未来を作りたいと願う奴。



変えて見せよう、一度は金も地位も権力も全てを手に入れたこの悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが。



「やってやるさ……どんな手を使ってでもな」





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