28.忍びと神子 欠伸をしながら海を眺める。もう見慣れた風景で、違和感はない。 「ルルーシュどうしたの?欠伸なんて……」 「夜中に少しシンクと話していただけだ。後、気になる話をアッシュに聞いたんだ」 「気になる話?」 「マルクトに見慣れぬ奴が4人いる、と」 「僕たちと同じってことか?」 「その可能性は高い」 チェスの駒を弄りながら船の進行方向に目をやる。流石にマルクトに行くので、服装は礼服ではなく私服だ。 ちなみにユーリとエミリオは甘い物談義中だ。今度作ってやろうと思う。 「あれ〜、あんま見ない顔だねぇ……」 「ゼロス!急に話し掛けるんじゃないよ!」 俺は話し掛けてきた奴等の方を見る。一人は……男でアッシュを思い出させるような赤色の髪を隠すようにフードを被っている。腰にはあまり長くない剣。もう一人は純粋な黒髪の女。 気に入らないがここに来てから戦闘をしているせいか、直感と言うものが強くなった。スザクは静かに俺が買った剣に手を置いて構え睨み付けた。 「あぁ警戒しないどくれ!悪かったよ、この馬鹿はアタシが叱っておくからさ」 「えぇ〜しいな酷ーい」 「黙りなアホ神子……ってもう神子じゃなかったね」 「そうだぜ」 「スザク大丈夫だ。手を離せ」 「イエスユアマジェスティ」 剣から手を離したスザク。ホッとしたような女が男の方を殴った。 「いっ!?」 「人様に迷惑をかけるんじゃないよ!連れがすまなかったね。アタシは藤林しいな。しいなが名前さ。此方の馬鹿はゼロスだ」 「(日本の読み方!?ルルーシュ!)」 「(分かってるさスザク。俺に合わせろ)」 スザクが頷いたのを確認して、二人に笑顔で向き直る。微かに男の方が反応した。 「いや良いよ、吃驚しただけだから。俺はルルーシュ・ランペルージ。此方は護衛の…」 「枢木スザクと申します」 「えっと……ルルーシュとスザクだね。よろしく!」 「よろしく〜ルルーシュ君にスザク君」 ヘラヘラ笑っているゼロスと名乗った男は、俺と同種に近いと感じる。コイツは仮面をつけている。 「ルルーシュはマルクトには観光かい?」 「ああ。普段はキムラスカで仕事をしているから、たまにはマルクトの様子を見たくて此方にね。藤林さん達は?」 「しいなでいいよ。アタシは、ちょっと魔物にやられて気絶していた所をグランコクマに住んでる人に助けて貰ったんだ。だから、恩返し中でさ」 「しいなは、ドジだからな」 「余計なこと言うんじゃないよ!」 ((夫婦漫才………)) からかわれて怒るしいなに、楽しそうなゼロス。どうやら普段もこんな感じらしい。 「こうやって話したのも縁だろうから、良かったらグランコクマ案内しようか?」 「良いのか?二人とも仕事があるんじゃないのか?」 「大丈夫さ。アタシ達の上司はそこまで鬼畜じゃないよ」 「いや鬼畜眼鏡居るじゃん……」 「じゃあ、折角だしお願いしようかな」 「任せときな」 純粋に豪快に笑ったしいなに思わず俺とスザクは笑う。彼女は雰囲気は違うものの何処か咲世子やカレンに似ている気がした。 「なぁルルーシュ君。本当にスザク君は護衛だけの関係か?」 急に口を出してきたゼロス。やはりコイツ見た目と内面全く違う。話すまでは気を付けなければいけない。 「よく解ったな。スザクは俺の親友だ」 「元々同じ村の出身の幼馴染みでね。ダアトで久し振りに再会したんだ」 「へぇ!そうだったのかい」 「弟と友人が居るから後で紹介するよ。所でゼロスは何故フードを被っているんだ?」 明らかにギクッとしたしいなに、ゼロスとスザクが呆れた視線を送った。 「あ〜、いや、その」 「ルルーシュ君、解ってて訊かないでよねぇ」 「ふっ、悪い。だけど、オールドラントに赤い髪に緑の瞳はキムラスカの王族って有名だろ?」 「だけど、王妃は美しい黒髪だって俺様訊いたけど〜?ルルーシュ君も怪しいよねぇ」 「ゼロス、王妃はナタリア殿下をお産みになってすぐに亡くなられた。俺とほぼ同い年のお前はその姿を見ることは不可能だ。何故知っている?」 ゼロスまでもがしまったっと言う顔になる。容易いなと思い、笑みを浮かべる。少し退いたスザクの腕を思いっきり摘まんでやった。 「加えて言うが、王妃の肖像画は国王の部屋にしかない。キムラスカ王族に関係のある者しか知らないんだがな」 「僕達が知ってるのは友人がギルドをやっていてね、依頼で行ったファブレ公爵のメイドに訊いたそうだよ」 「さて、何故か答えて貰おうかゼロス・ワイルダー、藤林しいな」 明らかに戦闘体制に入った二人に、スザクが前に出て抜刀の構えをとる。俺もチェスの駒に触れる。二人がどんな技を使うか解らない今、白兵戦に慣れていないので戦いは不利だ。頭を落ち着かせる。大丈夫だ、俺とスザクで出来ないことなどない。 一触即発の雰囲気を逆転したのは嬉しい仲間の声だった。 「武器を納めろ。ルルに手出しをするのは僕が許さん」 「ルーシュとスザクは俺の仲間なんでね、傷付けるなら………ただじゃすまさねぇぞ」 「ナイスタイミングだ、リオン、ユーリ」 彼等の後ろにリオンとユーリが現れる。リオンはシャルティエにすら触れる様子はない。ユーリはヤル気満々らしい。 「アタシ達随分なめられてるみたいだね」 「何を言っている?お前達こそ俺達をなめているだろう。たった二人でどうにか出来ると思うな」 「自分とルルーシュに出来ないことはない。これだけの実力派に加えて、ルルーシュの頭脳があれば負ける気はしない」 俺以外の三人は殺気を纏わせている。俺も怖いくらいに。ヒラヒラと武器から手を離し、最初に折れたのはゼロスだった。 「俺様こーさーん!」 「ゼロス!?」 「他の三人は未だしも、ルルーシュ君だけは攻撃する気ないみたいだし、大人しくしといた方が身のためだぜ?しいな」 「……解ったよ」 「全員攻撃体制を解け!」 「イエスユアマジェスティ」 「「(ルル/ルーシュ)が言うなら……」」 スザク以外は渋々剣を納めた。だが、俺はチェスの駒に触れたままにする。ゼロスは腰に剣があるが、しいなは武器を持っていない。それにゼロスはこの状況から抜け出せる自信があるから降参している。現に今まで何度も見てきた諦めていない瞳をしている。 全員と目を合わせて、俺は平然と笑顔で返す。 「すまない、キムラスカ王族に連なる人と繋がりがるから見逃すわけにはいかなかったんだ」 「へぇ………しいな!!」 「あいよ!」 胸元から札を取り出した。あれが彼女の武器か。全員に何もするなと示すように抵抗はしない。これくらいならばスザクが取り押さえられるものだ。全員の周りに札が飛んでくる。 「なんだこれは!?」 「悪いね、私達はマルクト皇帝に雇われて居るからキムラスカ王族に連なる者ならば逃がしやしないよ」 札の威力が発動され、身体が重たくなり俺はわざと膝をついた。スザクとエミリオは平然としていたため札の数を倍に増やされていたのはあまり納得がいかない。これでも鍛えたんだがコイツらっ……。 しかし、まさかマルクト皇帝と繋がっているとは。今後を考えると協力を得たい。 「おまっえ……」 「しいなを舐めてたのはどうやらアンタだったみたいだなぁルルーシュ君」 ((((ルル/ルーシュ/ルルーシュ)を舐めてるのはお前だ……))) (貴様らっ!!) 明らかに俺を見てきた三人を睨み付ける。俺はそんなにひ弱に見えるのか!? 「とりあえず〜、ルルーシュ君達には悪いけど軍に引き渡すから。じゃないと、あのおっさんが五月蝿いのよ〜」 「悪いね。私はマルクト皇帝に世話になってるからさ。不穏分子を見逃せはしないのさ」 「けど、しいなと同じ名前の見方って珍しいよな〜、スザク君」 「主の許可なく答える気はない」 ピシャリとゼロスの言葉を返したスザクに、ゼロスは此方を向く。 「ふぅん、護衛って言うのは本当なのね。なら、俺達の方に願える気はない?俺様逹の方が金は出せるぜ」 「何を勘違いしているのか知らないが自分はルルーシュ以外に着いていく気はない、僕はルルーシュの騎士でそれ以上でもそれ以下でもない」 「スザクッ」 「案外思ってたより強い繋がりがあるんだな……他の奴等はどう?」 「ルルは僕の兄だ。見捨てる気など毛頭ない!」 「話し合いじゃなく武力行使に移り、権力を振りかざすたー俺の一番嫌いな貴族その物だな。そんな奴らに着くくらいなら俺はルーシュと共にいくぜ」 ユーリの言葉に微かに眉を潜めたゼロス。ほう、こいつ貴族の部類か。しかも、嫌悪していたと見える。ここまで解れば充分か。 俺は平然と立ち上がる。その姿にしいなが札を増やすが意味はない。 「なっ、まさか効いてないのかい!?」 「んなことはねーだろ!?」 「ふっ、見事に浅はかな作戦だった。隙だらけ過ぎる。やろうと思えばこんな札飛ばされる前に、スザクが貴様を取り押さえられたしな」 「は!?でも」 「俺が全員に抵抗するなと指示したからな。まあ一切口には出さす読み取れる強者三人だからこその指示だが」 口角を上げ笑った時にゼロスはようやく俺の仮面を悟ったらしい。俺はポケットからチェスの駒のキングを取り出し、第七音素を籠めた。 「契約者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる。第五音素意識集合体イフリートよ、我らを拘束する物を焼き払え」 『承知した、ユリアに未来を託されし赤き翼よ』 響いた声と共に全員の札が急に燃え上がった炎に焼き払われる。 「ローレライ来い」 『承知』 フワリとオレンジ色の炎が宙に現れ、意志があるように俺にすりよった。 NEXT [*前へ][次へ#] [戻る] |