09.鮮血のアッシュ
部屋でエミリオと何食わぬ顔で談笑しているが、明らかにルークが聞いているのを二人とも気付いて話している。目で合図して預言のことに話を移す。
「そう言えば、聞いたか?預言のこと」
「あぁ何気無しに聞いてみたが、あれは異常だな。あんなのに従って生きるなど、それこそ舞台の上で踊らされている人形だ。僕には到底考えられない生き方だ」
「"明日"を知らないからこそ人は前に進もうとすると俺は考えている。だからこそ、預言から人は外れて生きるべきだ。そうやって生きてきた人を俺達は知っているからな。預言に従い生きることは楽だ。だが、預言に従い決められた道を歩くのは変化なき日常を生きているとは言わない。俺はこの世界も"明日"に向かわせて見せる。この世界全員が預言が全てだと思っている訳ではない。抗い続ける人が居るならば、たとえどれだけ時間がかかろうと人は幸せを求め続け、皆が幸せを願い抗い続けるはずさ。自らが選び苦しみ、選択できる未来を」
「……ルルだからこその言葉だな。そんな哲学みたいなことは言えないが、僕はただ定められた運命など気にくわない。僕は僕自身の選択で生きてきた。僕自身で選んだからこそ後悔はない。この世界の人にもそれを知って欲しい。いや、知らなければならない」
「俺は何度も後悔したけどな。だが、俺は満足している」
「右に同じだ。本音を言えば少しだけ後悔はしてる」
「何言ってるんだよリオン。それだけ言えるのは凄いことだ。俺はエミリオはもっと自信を持って良いと思うけどな」
グシャグシャと頭を撫でてやると照れたように顔を背けたエミリオ。コイツ褒めに弱いな、良いことを知った。ナナリーやロロの髪の毛とは違いストレートに近い少し癖毛のある細く純粋な黒色の髪。少しだけ懐かしくなり、そのまま撫で続ける。控え目なノックに二人で振り返る。
「あの……俺だけど、入って良いか?」
「ああ、構わないが」
ドアを開けて入ってきたルークは、明らかにいつもとは雰囲気が違った。エミリオの雰囲気が警戒体勢に入っている。なんかエミリオ、猫みたいだな。そう考えると俺はなつかれているのか。
「あ、えっと……警戒しないでくれないか?話したいことがあってさ」
「警戒をするなと言う方が無理な話だ」
「リオン、警戒を解け。それに俺達は元々聞き耳立ててるの前提で話してるんだからな。ルーク・フォン・ファブレ……いや、その様子では理解しているのか?レプリカルーク」
「なっ!?」
「?」
「やはりか……となると、ヴァン・グランツが危険因子か。信託の盾騎士団は信用ならないと言うわけだな」
完璧に固まったルークとフォミクリーを知らないエミリオは、眉間に皺を寄せた。
「な、なんでそれを!!」
「かまをかけただけだ。根は正直な馬鹿みたいだな」
「う゛……」
「まさか一番手軽で気付きやすい手に引っ掛かるとはな。手間が省けた。さて、バラされたくなければ知っていることを全て吐いて貰おうか」
ルークが剣に手をかけようとした瞬間にエミリオが短剣を投げた。ピタリと動きが止まる。更にエミリオはシャルティエを抜いてルークに向けた。俺は久々の事態に笑いが漏れる。
「動くな。ルルに剣を向けるならば、例えファブレ家のご子息でも容赦はしない」
「別に敵に回したい訳ではない。俺達兄弟には目的がある。少しでも情報が欲しいだけだ」
「………なら、取引だ。俺達の正体を話す代わりに二人の正体も知りたい。その上で話す」
「ならば、もう一人に出てきて貰おうか。無慈悲なる白銀の抱擁、アブソリュート!」
窓の外の気配に向かって術を放つ。明らかに手応えがあったが、流石に禁術はやり過ぎたか?
「アッシュ!」
「無事だから静かにしやがれ!」
外から声がして窓から一人の男が入ってきた。が、エミリオがタイミングを合わせ蹴飛ばして着地に失敗していた。俺の術も当たったのか、ボロボロである。
「ふんっ、僕達を欺くなど貴様等には早い」
「あー……アッシュ、大丈夫か?」
「も、問題ねぇ…」
台詞とは裏腹にフラフラ立ち上がる。その顔を見た瞬間、俺は納得する。
「……お前がルークの被験者か」
「アッシュ仮面壊れてる!」
「無駄だ。コイツには仮面があっても隠せねぇ。お互い自己紹介しようじゃねぇか、本名でな」
「ルル、今すぐコイツを斬って良いか?」
「待てリオン。先程の提案乗る」
「!……分かった」
ようやくシャルティエをしまったエミリオ。ルークが先程飛ばした短剣をエミリオに返して、アッシュと呼ばれた赤色長髪の奴を治療してやる。その間にエミリオに簡単にフォミクリーの説明をした。全員が落ち着いて座る。
「言い出したのは俺だし、先に此方が自己紹介するよ。俺はルーク。ルルーシュが言った通り、この隣に居るアッシュのレプリカだ。だから、いちよう年齢はまだ七歳になる」
「俺がアッシュだ。本名はルーク・フォン・ファブレでルークの被験者になる。今は髭のせいで、信託の盾騎士団特務師団の師団長をやっている」
「お前があの六神将の『鮮血のアッシュ』か」
「あぁ。今度はそっちだ」
「俺はルルーシュ・ランペルージ……と名乗っている」
「僕は、リオン・ランペルージと名乗っている」
「テメェらっ!!」
「アッシュ落ち着けって!!」
冗談だったのだが、これくらいでキレるなどアッシュは相当な短気らしい。ルークが必死に止めている。
「冗談だ。此方の名前を知っておいて貰わなくては俺達が困るからな。改めて自己紹介をしよう。俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
「僕はリオン・マグナスだ」
「…リオンと兄弟じゃないのに一番驚いた」
「……確かにな」
「貴様ら驚くところが他にあるだろう!!全く二人とも馬鹿か」
エミリオの突っ込みは正しい。確かによく似ているが……。
「あっ!ルルーシュって貴族なのか!?」
「違うな。王族だ……神聖ブリタニア帝国の、な」
「むしろ皇帝陛下だな」
「「は?」」
「ここから先は信じるか信じないかはお前達次第だ。俺もリオンも別々の異世界から来た」
「「……はぁ!?」」
「貴様ら五月蝿い!」
エミリオがシャルティエが入った鞘で二人を叩いた。
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