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第1話 帰国

空港で周りが再会やらで騒がしい中、彼女はその間をスタスタと通り抜けていく。日本特有の漆黒の髪ではなく、むしろ少し色素が抜けたような灰色の髪は短さからか首元で跳ねている。純粋な黒い瞳は楽しそうに周りを見ている。その騒音すら楽しむように鼻歌を口ずさみながら外へと出た。 



「さぁ久々の日本だ」



彼女−−松山陸は久し振りである日本の空気を思いっきり吸い込んだ。






















「ノコちゃーーん!!」



僕がこれから日本で勤務する土地の警察庁に訪れるとそこには久しい姿の刑事がいた。随分とコートの色が変わっている気がするが、いかにもデカという感じで似合っているのでこの際気にしないでおこう。



「松山待ってたっスよ!」

「お久し振り、相変わらずじり貧生活なノコちゃん」

「それは言わないで欲しかったッス……」

「めんご、めんご」

「松山は自分と同じ課になったッスよ!」

「へぇ、ホント?じゃあまた宜しくねノコ先輩」



見た目からしてデカっぽい糸鋸圭介は僕の先輩にあたる人だ。とりあえず誉めれば、捜査には徹底的に取り組む人。悪く言えば、熱すぎるし五月蝿い。まぁ簡潔に言えば情熱的過ぎるがいい人だ。

嬉しそうにニコニコしているノコちゃんに釣られて僕も笑う。嫌いにはなれない人だよなぁ…。



「宜しくッス。じゃあ中を案内するッスよ」

「うん、ありがとう」





















ノコちゃんにあちこち中を案内して貰いながら昔話に花が咲いた。話しながらちょっと日本語が懐かしいとか、日本人としてどうかと思った。



「ここの資料室が最後ッス。あんまり人は来ないッスよ」

「へぇ…なかなか綺麗になってる」



1つ適当なファイルを取ってみてみると、中も見やすいように綺麗にされている。忙しすぎて資料が積み重なっている何処かの本部とは大違いだ。僕が片付けてはきたけど帰ったらまた積み重なってるんだろうなぁ…。



「ム……糸鋸刑事か?」



唐突に声が聞こえた。どうやら先客がいたようだ。その声にノコちゃんが慌てた。



「みみみみみみっ御剣検事ぃぃい!?」

「ノコ先輩?誰なの?」

「そんなに驚かないで頂きたい」



棚の影から出てきたのは、はっきり言って美形の男の人。黒髪黒目に、首に白いスカーフだろうがヒラヒラのフリルと言った方が想像がつくだろう。後は上下とも赤のスーツを着ている。

随分と目付きが変わったけれど、とても懐かしい彼に口元が少し緩む。



「……糸鋸刑事」

「はっはいッス!」

「彼は誰だね?」

「自分の後輩ッス!一週間前に海外研修から帰ってきたばっかなんッスよ」



ノコちゃんが何故か生き生きしている。なんかまさにご主人様に懐いている犬というか感じで……いやというか、ノコちゃん彼と知り合いだったんだ。
二人のやり取りを一歩後ろから見ていたのにノコちゃんに前に出された。



「松山、この方が御剣検事ッス。この近くの事件をよく担当するから挨拶しといた方が良いッスよ」
     ・・・・・
「はーい。初めまして。僕は松山です。糸鋸刑事の後輩に当たります。今日からノコ先輩と同じ所轄の刑事になります」



わざとらしく丁寧に頭を下げながら、「初めまして」を強調して言ってやった。

赤スーツの彼−−御剣怜侍とは小学校からの友人である。海外に行ってからは連絡はとっていなかったのだが、逆に海外に行くまでは連絡を取り合っていた。だが、直接会うのは久し振りであるのには間違いないので、忘れ去られてる気がする。



「検事の御剣 怜侍だ。宜しく頼む」



向こうも丁寧にお辞儀をしてくれたところから、案の定僕の事は忘れ去られているらしい。軽く酷いな怜侍。



「御剣検事の前だったらそう固くならなくて良いッスよ」

「そう?ならやっぱりノコちゃんで。長くて言いにくいもんね、ノコちゃんの苗字。だからイトノコって言われるんだよ」

「別に好きでなった苗字じゃないッスよ?!」



ノコちゃんとコミカルな会話をしていると視線を感じて怜侍をみる。どうやら引っかかる何かはある様子。



「松山君と言ったか…失礼だが私と会ったことないか?」

「さあ?分かりませんが、長いこと海外に行って日本を離れていたので気のせいじゃないですか?」

「(見覚えはあるのだが……思い出せない。明らかに向こうは私を覚えているみたいだが…)」

「きっと気のせいッスよ!御剣検事と歳も同じッスから似たような人を見たことあるだけッスよ」

「(こんな印象の強い髪色昔見たことある気がするのだが…)松山君は私と同じ年なのか?」

「と言うか、御剣検事何歳なんですか?」

「(引っ掛からないか…)今年で24歳だ」

「(思いっきり探られてるし)じゃ、同じですね」

「(間違いなく私の事知っているだろうな)そうだな。それならば是非今度ゆっくり話してみたい」

「(思い出せ馬鹿)天才検事と有名な御剣検事となら是非」

「(思い出して欲しいなら教えたまえ)」

「(い・や・だ)………ハッ」



いつの間にか探り合いをしているうちに心の声で会話をしていた。いい加減思い出せよ。ちょいとムカついたので思い出すまで黙ってることにする。

無言で僕を見つめていたが、御剣検事は溜め息をついた。あ、諦めたな。



「私はこれで失礼する」

「お疲れ様ッス!御剣検事」

「お疲れ様でした」



いつ気付くかなぁと思いながら、僕は見送った。



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