◇hnmz 15.[完] 「…はな、い…?」 肩を掴んでいた手で水谷を強く抱きしめた。 支えていた自転車は俺の背後で、無惨に横たわっていた。 籠に入れていたかばんも道端に転がっている。 「お前が好きだよ、水谷…。」 一度言ってしまえば、堰を切ったように想いが溢れ出し、 俺はまた水谷を強く抱きしめると、その想いを言葉にしていた。 ガシャン! 水谷の自転車が倒れた。 「は、…はな、…い…。」 震える声が俺の名を呼び、 震える手が俺のシャツの裾を弱々しく掴む。 泣いて、いるのか…? 回していた腕を解き、身体を離して水谷の顔を見ようとしたら、 ゆっくりと水谷の腕が俺の背に回り、 水谷の顔が俺の肩に押し付けられる。 えっ………、 これって…………? 「…俺も、好き……。」 みず…た、に…? 「俺も、花井が…好き。」 頭が真っ白になった。 まさか水谷も俺の事好きでいたなんて、 予想もしてなくて、 俺はただ、水谷を抱きしめ返す事しか出来なかった。 ひたすら抱きしめ合った。 夢じゃないかと、 お互いの存在を確かめる様に強く。 言葉なんていらなかった。 この腕の中の存在が、 温もりが、 全てを語ってくれていた。 「お前、顔ぐちゃぐちゃ。」 「うぅっ、…だって…。」 飽きる程に抱きしめ合って、ようやく身体を離した俺は、 涙で濡れた水谷の頬を手のひらで拭った。 水谷の泣き顔を綺麗だと思った。 今にも壊れてしまいそうで、優しく頭を撫でると、 俺を見上げ、柔らかく水谷が笑った。 あぁ、泣き顔も綺麗だと思ったけど、 お前にはやっぱ笑顔が似合うよ。 ずっと近くにあったこの笑顔。 近過ぎて俺は気付けなかった、その大切さに。 お前の笑顔はいつも俺に元気をくれていた。 太陽に向かって咲く向日葵のように、 いつも輝いていた。 そして、今も……。 季節外れの…、 真冬の向日葵のように。 いつまでも、 俺の隣で咲いていて欲しい…。 END. 08.12.31 →儚くも美しき恋の終焉・序章 [*前へ] [戻る] |