まいがーる 思い出してほしいから。 2 * 暗闇の中、誰かが私の名前を呼んでいる。 誰だっけ…名前が思い出せない。 思い出そうと努力すると頭が締め付けられるように痛くなる。 思い出してほしいから。 2 (必死に誰かが私を呼んでる……。) 「カナちゃん…。カナちゃん…!!」 『……!』 暗闇の中、声を頼りにして目を開けたら知らない人が立っていた。 しかも私のことをカナちゃんって呼ぶし……。 『やぁっ!近よらないでっ!』 「えっ…?」 何で驚いた顔をしているの?訳分からない。 私のこと、何でも知ってそうな感じを装って……。 怖いよ、誰なの?貴方。 「あ、いらっしゃってましたか。相葉さん。」 「はい…。カナエは?カナエはどうなったんですか?」 「車に強く当たり、しかも頭部をやられてしまいました。……記憶喪失です。」 「……!!」 知らない人がお医者さんから“記憶喪失”と言われたら物凄く悲しい顔をした。 何で、何でそこまで付き纏ってくるの? 「では、私はこれで。」 「ありがとう…ございました。」 私の居る病室を後にするお医者さんに向かって知らない人がお辞儀をした。 『ねぇ…』 「ん?」 『何でそこまで私に関わるの?』 「それは…カナちゃんの彼氏だからだよ。」 嘘。 嘘だ。 彼氏?居ないよ、私になんか。 しかもこんな初対面のくせに馴れ馴れしくあだ名で呼ぶ奴なんて。 『冗談言わないでよ、私の本名も知らな「秋山 カナエ。」……生まれた日は?』 「5月12日。」 『……本当に、彼氏なの?』 「うんっ!!」 私、本当に心の底から思った。 この人、誰も持っていない温かい何かを持ってる。 何でだろう。さっきまでしつこい人だなって思ってたけど、そんな感じはもうしない…。 『ご、ごめんなさい。』 「えっ?」 『さっきまで、しつこい人だと思ってた。でも、本当は違うんだなって。』 「あぁー…。」 『あっ、傷付けた……?』 私がそう言うと、笑顔で“全然っ!!”と答えてくれた。 嘘とかついてないといいけど…。 『あ、名前。名前…聞いてない。』 「あっ、そうだね!俺は相葉雅紀ッ。相葉ちゃんでも雅紀でも好きに呼んでよっ♪」 『相葉…雅紀……』 どこかで聞いた時のある名前。私が小さい時からずっと居てくれている―… そう!幼馴染みだ!あと…なんだ?友達以上の… 『幼馴染みで…親友。相葉さんと、私が。』 「!!そうだよっ!!俺らは幼馴染みで親友以上の―」 相葉さんが途中で言葉を止めた。 止める必要なんかどこにあっただろう。と私は首を少し傾げ不思議そうに彼を見た。 「ねぇ、カナエちゃん?」 『ん?何?』 「彼氏…居ないんだよね?」 『…………』 返す言葉が思い浮かばなくてこの場に沈黙が走る。 私はただ瞬きをするだけ。 相葉さんは私の返事をまだかまだかと待っている。 いきなりそんな質問に答えられるかっ!!と思いつつも、口を開く。 『分からない。でも、居ない…はず。』 「じゃあ俺でもいい?」 『……………』 は? そう思ったのは一瞬で。 不思議に拒否は出来なかった。 いや、 出来るはずがないと心がそう思ったのだろう。 『私…その…』 「記憶喪失なカナエちゃんでも気にしないよ!俺。」 『…?』 「何故なら…」 俺が君の彼氏でいなければならない存在だから。 いきなり発された言葉。 意味なんか全く分からなかった。 けど、後に分かっていくんだな。これが。 意味がとても深い言葉。 そして、 相葉ちゃんの再びの告白の言葉。 その時は嬉しいとか思ってないと思うけど、思い返してみれば照れてしまう。 私も貴方にとってそんな存在で居たい。 *前← [戻る] |