気付いて、番長! 図書室の、 講義が終わり、バイトのある総一と別れる。なんだかものすごく心配されていたけど。 足早に通路を歩きながら和希にメールを送る。いつも返しが早い和希からメールが無いため、寝ているのかなと思いながら携帯をしまい、図書室に向かう。 実は忘れ物をして和希に持って来てもらったのは3回目。 多いなとか自分でもちょっと思うし、親からも言われているけれど、和希からは特に言われないからついつい甘えてしまう。 図書室に入り、本棚を抜けると自学兼読書用の机と椅子が並ぶ。土曜日の、しかも試験前でもないこの時期に人はほとんどおらず、和希は一瞬で見つかった。 日当たりの良い窓際の席で、腕を組んだままピクリとも動かない。 「和希」 図書室で、誰もいないとはいっても遠くから声をかけるのはさすがに気が引ける。近づいて名前を読んでも、和希は閉じた目を開こうとしない。 「寝てる・・・?」 それも本気寝なのか、椅子一個分の距離からでは意識を覚醒させるのは難しいらしい。 肩を叩いても和希は全く起きず、仕方なく顔を覗き込んだ。 やっぱり、カッコイイと思う。 顔のパーツが整った顔の造りをしている和希は、まぎれも無く和希母似だ。 和希の母さんは40を超えた今もとてつもない、モデルか女優かってくらいに美人で、主婦って雰囲気丸出しの俺の母さんとは大違いだ。 美人なのにそれを鼻にかけない感じも好きだし。いや、もしそんな性格だったら俺の母さんと仲良くしていないだろうけど。逆に・・・いや、今はうん、やめとく。 加えて、和希には身長もあり、町に出れば事務所のスカウトだとか、派手なお姉さんたちからいろいろとお誘いを受ける。そのレベルは俺なんかと比べ物にはならないくらいで、嫉妬とか妬みとかは逆にない。 むしろ俺は誇らしい気分だ。だって本当に、家族みたいに一緒に過ごしてきたし、和希は嫌がるけれど俺にとってはやっぱり弟のような存在だ。 だから、だから本当に番長っていうのも正直辞めてほしいけれど、あまり怒りは湧いてこない。ただそれで周りから好機の目で見られるのがいやなだけ。 いや、今はそんなことはどうでもいい。今はとにかく和希を起こすのが先決。 「和希ー?おーい」 ゆさゆさと軽く肩を揺さぶっても「んー」と唸るだけ。だめだ、起きない。 頼むから目を開けてくれ。そう思って肩から手を離し、肉のあまり付いていない頬に手を伸ばして、むに、と軽くつまむ。 あ、結構気持ちいい。全然柔らかくないけど。 ちょっと楽しくなってきた。いや、和希で遊ぶのっていつぶり?小学校? むにむに、むにむにと最初は片手で遊んでいたが、感触とか和希の顔が変形するのを見て、ワクワクとした気持ちが湧き上がって、左手も伸ばし、 、いや。だめだろ。起こさないと。むしろなんで起きない。 はっと道が逸れてきた意識を戻し、もう一度声をかけようとしたら、頬をつまんでいた手の手首を掴まれる。 「っ!!」 「なんだよ、終わりか?」 にやっと目を開けて笑われる。びっくりして動けない俺に和希はくぁ、と欠伸を噛み締める。 「、かず」 「おはよ」 いつから起きてたんだとか、怒られる、とかぐるぐる混乱する俺にそう言い、和希はそのまま掴んだ手をぐいっと引っ張る。 「っわ・・・?!」 がたっと隣の椅子が足に引っかかり、和希の身体に倒れ込みそうになって。 慌てて宙に浮いた左手で机に手を付き、支えようとした。 だけれどぐいっと頭の後ろを力強く引っ張られ、気づいた時には唇に暖かくて柔らかいものがぶつかる。 状況が理解できないまま、驚いて目を大きく見開けば、そこにあるのは瞼の伏せられた和希の顔だった。 (、何が起きているの?) [*前へ][次へ#] [戻る] |