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短編
雨は貴方を

雨は貴方を



降り続く雨をじっと見つめる___

今日の天気予報は、晴だった筈だ。

「傘なんて持ってきてねぇーよ」

静かに呟いた、誰も居なくなった教室に、ざざーっと無機質な音が響く、そろそろ

「帰ろうか」

俺は、怠い腰を持ち上げると机に掛けてあった鞄を手に取った。
そのまま、教室を出る。外はすっかり暗くなっていた。

下駄箱まで歩いて行くと、一人の生徒が傘を持って今学校を出ようとしている所だった。

俺は彼を柱の影からジッと見つめた。

彼は俺に気づいてない様子で傘を開いた、俺は声を掛けない

そして、彼はこちらを一度も振り返る事なく、霧雨の中へと姿を消した。

「いった…かっ」

心臓がバクバクと音を立てている、ドキドキなんてもんじゃない。

学校内に居るのは、俺と先生方だけ、
ふと傘置き場が目に入る、中に入っているのは一本の透明な傘だった。

けど、その傘は俺のじゃなくて別の人の物だ、手に取る気は更々無い。

いっそ傘をささずに濡れてしまおうか?

過去の人生を例えるなら「平凡」
現の人生を例えるなら「非凡」

昔は何も出来ない子供だったのに、大人になるにつれて出来る事が増えた。

それが成長、見た目だけじゃなくて
中身も変わって行く、それが普通だ。


出来る事が増えて行く、それは俺にとって味わった事の無い、初めての感覚だった。

テストで学年一位になった、周りの人達から多大な信頼を得た。

そして、生徒会長になった。

その時手にした初めての地位、俺は何でもできると思っていた。

だけど、人生はそう上手くいってくれないようで

手にした筈の信頼が転校生によって、一瞬で崩壊した。

それだけ脆かったのだ。

生徒会役員が転校生の方へと離れていった時、行かないでと心の中で思った。

いかにも桂だと言うようなモジャモジャの頭、煩い声…転校生が今いない筈なのに、何故か居るような気がして恐怖でいっぱいになる思考。

『助けて』

本当は辛いのに、強がってばかりでいつも言えないんだ。

たった一言で見えていた世界が変わるかもしれない。

自分はなんて弱虫なんだろう?

言えてたらきっと、今が変わっていたかもしれない。

『やまないな…』

昇降口の扉を開けると俺は傘をささずに駆け出した。


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