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城ノ内家の愉快な人々
「四」


 見ると、城ノ内家の四男――王我(おうが)が携帯片手に怒鳴っていた。


「ざけんじゃねぇこのボケナス!!俺の鞄の中にゃね――……あった…………」
『――!――――!――――――――――!?』
「『あったんですね!?』、じゃねぇんだよ!てめぇなんで俺の鞄の中に入れてやがる!――あ?……………………確かに俺の鞄は四次元になっているが、――だからってついうっかり入れることはねぇだろうが、こんの大間抜け!どうすんだコレ!!今日の朝が提出期限じゃねぇか!間に合わねぇぞ!?――ったく、よりによって新歓で使う重要書類を大量に入れ込みやがって馬鹿が。……次こんなコトになったらてめぇの家族もろとも社会的に抹殺してやる。――あ?…………あぁ。今日は手伝ってやるから絶対ぇ間に合わせろ、この阿呆が」

 優しいのかひどいのかよくわからない罵倒語を大声で怒鳴っていた王我は、最後にいらついた様子で舌打ちをして携帯を閉じた。
 疲れたように嘆息する彼は、不良よりも不良っぽい格好をしている所謂俺様のような外見の人だった。

 癖のある金髪に切れ長の金目。前髪を残して、あとは軽く後ろに流したような髪型。おしゃれとしてじゃらじゃらと付けているピアスやらネックレスやらのアクセサリーがやたら似合う美形さんである。
 ただ、俺様な外見とは似合わず、家族にめっぽう甘いお兄ちゃんだ。まあ。家族限定で、らしいが。

「今日の日程はどうするべきか。あの馬鹿が俺の鞄に入れた大量の書類もあるし、生徒会の挨拶もあるし…………うわ。死ぬ」

 心底疲れた様子で暗澹とした表情を浮かべている。

 王我は、神歌が入学する白木聖男子校の生徒会会長らしく、常に忙しい生活を送っている。神歌としては我が兄ながらこんな不良ルックなひとを会長にするなんて大丈夫なのだろうか、白木は。みたいな心情だが、まぁそれは見た目だけの問題なのでさほど心配はしていない。
 王我はやる気なさげな見た目に反して意外と真面目なのだ。寧ろ生真面目なのだ。

 そんな感じで家族が好きすぎる王我は、来夏が作った食事を生命の回復源であるかのように食していた。
 とてつもなく幸せそうな顔をしている王我を見て地味にうれしそうな感じになっている来夏かわゆい。

 ほんわかと癒されて、神歌は何気なく時計を見た。
 ものすごくレトロな、大きなのっぽの古時計みたいな感じの時計が、ボーン、ボーンとリビングルームに響き渡るような音量で8時の合図を告げた。

「…………」

 とりあえず、艶やかな光沢を放っている白米を口の中に入れ、咀嚼し、呑み込んで隣にいる来夏に話しかける。

「来夏くん」
「?」
「入学式はいつでしたっけ?」
「…………30分後」

 確かここの屋敷から白木聖男子校までは最低でも40分かかるのではなかっただろうか。
 結構冷静に考えて神歌は無言で、しかし迅速に食器とかを片付けた。

「わたくしとしたことが……。朝食があまりにも美味だったからと言って入学式に遅れてもいい理由にはならないのに」

 呟いて、家族1人1人に配られているその日あった出来事とか、そんな感じの報告とかをする日記を鞄の中に詰め込み、家族全員でしている日替わり制の交換日記を、次の当番である来夏に手渡す。

 無言で受け取る来夏。と言うか、彼も白木学園に行かなければならない時間ではないのだろうか。何故そんなにゆったりと余裕こいているんだ。――あ。いや。この子いっつもこの時間にこんな感じだ。そしてゆっくり白木学園に登校していっている。さては遅刻常習犯だな。何をやっているんだ全く。

 呆れて、神歌は可愛い可愛い弟に、できるだけやんわりと叱る。

「来夏くん、だめですよ。義務教育だからって毎日のように遅刻しちゃ。先生方もお困りになりますよ」

 思わず頭をなでなでしながら言ってしまうのは、あまり気にしないでほしい。すべては来夏が可愛すぎるのがいけないのだ。罪づくりな子めっ。

 本気で思っていると、来夏が神歌のブレザーの裾を遠慮がちにきゅっ、と握って本当に申し訳なさそうな、子供が悪さをしたとき親に怒られて反省するような、そんなうるんだ瞳で神歌を見下ろしてきた。

「…………ごめん、なさい」


 …………。
 ……………………。


 ――カハッ。


 あまりの破壊力に神歌は遅刻だということも忘れて吐血した。


 後から聞いた話だと、神歌が吐血するのを見た家族は大慌てで介抱してくれたそうだ。
 その話を聞いて、屋敷にある高級品とかがもれなく壊れているのはそのせいだったのかと神歌が思い、また深く罪悪感にかられて3日くらい内心で落ち込んでいたのはまた別の話。



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