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城ノ内家の愉快な人々
「なな」


「あ――」

 のんびりと。

 とぼけたように、彼女は声を上げた。結構高い位置にある屋根に腰掛け、彼女――城ノ内家長女、雨海(あまうみ)は頭に流れる映像に、思わず声を上げてしまった。
 月の化身の様な美女である。あり得ないほど長い黒髪は屋根の上で扇子の如く広がっており、軽く伏せられた色素の薄い瞳には長い睫毛が影を落としていた。ふんわりと、座ったら下半身を完全に覆い隠すような豪華なドレスを身にまとって、雨海は弟である神歌が気になった為に覗いた力による映像を、遠く彼方を見つめながら鑑賞していた。

『…………しんか、きこえる――?』

 脳から人間で言うところの電磁波とか言うものを発生させて、雨海は神歌へと連絡を取った。――否。正確には、『神歌の中にいる神歌』に連絡を取った。

――おお、聞こえる聞こえる。どうした、雨海チャン?

 飄々とした口調に似合った低音の、聞いたら耳が孕んでしまいそうな『彼』の声に――もっと正確さを求めるとしたら音に、雨海はボウッとした表情を変えることなく応答した。

『おもての、しんか、ともだち、つくった――?』
――ん?んん。作ってんぜー、あのタラシ。……あぁ、あいつは俺か。

 別段興味も示さない様子で、『彼』は言う。

『おうが、は、どう?』
――王チャン?

 何故そんな事を聞くのか、と言うように『彼』は不思議そうに聞き返した。今の『彼』は精神体だから、そういった感情がもろに伝わってきて会話しやすい。

『おうが、しんぱい、してた。さいごまで。しんか、の、にゅうがく』

 もともと会話と言うものが極度に苦手な雨海は、頑張って自分の伝えたい事をたどたどしいが伝える。そんな雨海を微笑ましそうに、クスリと笑った感じの『彼』は弾けるような明るい声で飄々として言った。

――それなら大丈夫じゃねぇの?今は来夏チャンが王チャンを監視してるっぽいぜ。本当に良く出来た子だよな、来夏チャン。ホント可愛い。マジで犯してぇ。
『――?』
――こっちの話。雨海チャンはそのまま純粋でいてくれ。

 どういう意味だろう。
 神歌の中で恐らく1人でも楽しく過ごしているのであろう『彼』の言葉がいまいち理解できなかった雨海は、頭上に疑問符をぽこぽこと量産していたが、頑張って頭を回転させてある結論に至る。

『……らいか、かわいい、って、こと?』
――。………………。

 沈黙。

『……ちがう、の?』
――うん、いや、まあ。

 何とも微妙な心境が、ダイレクトで雨海に伝わってくる。違うのだろうか。来夏は可愛いと言う事ではないのだろうか。

――…………うん、まあいいや。とりあえず、雨海チャンはそのままでいてくれよ。マジで。雨海チャンのお陰で、俺ってばこんなにはっちゃけれるから。
『――?……わたし、ひつよう、って、こと?』
――おうよ。

 えへへ、と照れたように雨海は頬を掻いた。家族に存在を認めてもらうのは、褒めてもらえるのは、とてもうれしい。はにかんだ雨海につられるように、『彼』も笑った。




――で、雨海チャンはなんでわざわざ精神体である俺に電磁波使って連絡してきたの。何か重大な事?
『あ、……そうだ。あのね、しんか』
――ん?
『…………そんな、やさしく、ききかえさない、で。はずかし、い』
――えー…………。
『でね、あのね』
――ん。
『おもて、の、しんか、の、ともだち。――どんな、ひと?』
――あー?あー。ちょっとまって。…………んー、何だろう。爽やか?
『さわ。やか』
――なに、どした。そんな呆然として。
『れいみ、と、さくらこ、が』
――腐関係か。
『…………ふ?』
――何でもねぇ。で?
『いってた。“さわやか、おうどう。ぜったい、ひつよう。しんか、どうてい、すてよう、そう、ぜめ、さくせん”』
――えー。まーじでー。俺的にはすっげえ最高なんだけど、その計画(?)。
『でも』
――ん?
『どうてい、すてる、って』
――?ダメか?
『……だめ、じゃ、ない、けど…………』
――巣立ちだと思って。な?大体、この俺がいながら今まで童貞を保ってきた『オレ』に驚きだぜ。
『…………むやみ、やたらに、おそっちゃ、だめ、よ!そのうち、ぜったい、5Pとか、になる!』
――どこで覚えた、そんな言葉!?
『れいみ、と、さくらこ、が、しんか、の、どうてい、なくす、さくせんの、なかで』
――…………あの二人の言う事なんぞ聞いちゃダメだ。雨海チャンがどんどん薄汚れていくから。
『――?』




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