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城ノ内家の愉快な人々
「六ページだ」


「きゃっ!」
「……どうした」

 城ノ内家、五女。城ノ内彬京は己の一つ下の妹の興奮したような悲鳴に、人目をはばかれ、と呆れながら何があったのかと聞いた。

「ちょっと聞いておくれよ、彬京兄さん!神歌が早速クラスの爽やかスポーツマンと友達になったらしいのだよ!」
「良かったじゃないか」

 いつもの妹のテンションについていく気も起らないので、彬京は駅の改札口をするりとした動きで通り抜けながら適当に相槌を打つ。

「分かってないなぁ、兄さんは」

 彬京の後に続いて改札口を抜けた、所謂獣人と呼ばれる彼女――城ノ内家六女の桜子は、黒とピンクのボーダー模様の尻尾をゆらゆらと揺らしながら仕方のないように肩をすくめた。
 背中に伸びる艶やかな黒髪には所々にメッシュが入っており、その頭上から生える耳は見事に黒とピンクに分かれていた。綺麗系な小顔に浮かぶぱっちりとしたネコ目は色素の薄いピンク色で薄く色付くω←こんな感じの唇は愛らしかった。色も白いから尚更愛らしさが目立つ。

 極上の美人の桜子に対する周りの注目もさることながら、彬京自身も目立っていた。
 すらりと高い背に見合った、男前で眉目秀麗な顔立ち。全身を黒でかためて近寄りがたい印象ではあるが、それが尚更彬京を見つめる女性たちの心を鷲掴みにしていた。左目の下に存在する泣き黒子は、彬京のもともと色気のある雰囲気を更に際立たせていた。

 桜子は自分が人より整った容姿をしている事を自覚しているが、残念ながら彬京は自分の見目麗しい容姿を自覚していないため、手に負えない。彼女は毎年のバレンタインで何故自分にいちいちチョコをくれるのだろうか、他にもっといい男がいるだろう、と思っている。

「爽やかスポーツマンだよ?分かる?この立ち位置の子がどれだけ大切か、分かる?」
「さあ」

 公共の場であるため、煙草を吸えない彬京は仕方なくガムを噛み始める。桜子の話に別段興味を持たない彬京を見て、桜子は頬を膨らませる。

「もうっ。生徒の話くらいちゃんと聞いてくれてもいいじゃないか、先生!カウンセラーなんだからさぁ」
「…………はいはい。もう少し話を聞かせてもらえるか、城ノ内くん」
「いやんっ。先生口調の兄さん萌える。マジ最高!」
「…………」

 何だこいつは。

 折角、桜子が自分の事を『先生』なんて呼ぶからそれに合わせてあげたと言うのに。本気で桜子を見捨てようとして電車に乗り込もうとした彬京に気づいたのか、桜子が慌てて後を追ってくる。

「ごめんごめん。冗談だって」

 苦笑した桜子に、こちらも冗談だという意を込めて彬京は軽く微笑みながら彼女の頭を優しく撫でた。ぴくぴくと動く猫耳が可愛らしい。一見してカップルだと思われそうな二人に、周りの乗客たちはそれでも美男美女の組み合わせに頬を染めて見入っていた。

 周囲の目に敏感な桜子はそれに気づいていたが、彬京は依然として気づかなかった。何だか視線が強いなぁ、程度にしか思っていない。

「でね、爽やかスポーツマンについて何だけどね――」


 気を取り直して語り始めた桜子の話を、彬京は手すりに身を預け、腕を組みながら聞いていた。



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