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城ノ内家の愉快な人々
「四頁で御座います」


 いや別に。本当にその通りだからこの青年に言い返す言葉はないのだが、しかし何だか癪に障る。確かに神歌は五男でありながら当主という立場についているが、今の自分はただの新入生――もっと言えば学生なのである。“城ノ内家の当主”という名称で呼ばれたくはない。

「――はい。城ノ内神歌と申します。どうぞ神歌とお呼びください」

 穏やかな笑顔でさりげなく“当主”呼びをやめるよう促した神歌は、最後にいつもの癖で青年に頭を下げた

「へえー。五男で当主になってるし、あのふざけた入学試験でも満点取ってるから、もっと堅苦しくてくそ真面目ながり勉ちゃんだと思ってたんだが、意外とそうでもないんだな」

 いい笑顔でさらりとすごい事を言う子だな――と神歌は思っても、ある意味ポーカーフェイスな彼は顔に出さない。というか君は誰だ。

「オレ、斎藤 誠重(さいとう まさしげ)っつーの。ここへは中坊ん時からいるから、なんか分んねえ事とかあったら聞いてくれよな」

 神歌の心の内を読み取ったように話したこの青年――斎藤の第一印象はとりあえず爽やかな好青年だったが、第二印象は元気な子だ。スポーツの特待生だろうか。

「因みにサッカーの特待生だぜ」

 またもや神歌の心の内を読み取ったように話した斎藤は、白い歯をにかっと見せて笑い、グッと親指を立てた。その立っている親指の意味がわからない。

「すごいですね。スポーツの特待生と言ったらかなりの実力者なのでは?」

 本をいったん閉じ、眼鏡をはずしてから神歌は心の底から驚嘆していった。ただし、神歌はあまり心の内を外に見せる事が出来ないので口調は穏やかなだけで少し淡々としている。こう言う時、つくづく神歌は自分が比較的穏やかに話すことが出来て幸いだと思う。

「おうよ。ちっせえ頃からそりゃあもう頑張ってたからなあ」

 さりげなく褒められたことが嬉しかったのか、斎藤は、はにかんで笑った。
 くどいようだが、神歌は内心を表に出すことがどうにもできないタイプなので、たとえ心の底から感嘆したり驚嘆したりしてもあまりそれが伝わらない。それがこの爽やかな青年に伝わったということは、こいつかなり洞察力に優れている。おまけに読心術まで心得ている。一般の(もしかしたら、そうでは無いかもしれないが)学生が、まだまだ二十にもなっていないような男の子が、そんな事を習得しているということは、この子かなり苦労しているな。
 ほんの些細な時間に思って、神歌はそれでも前向きに笑っている斎藤に笑みかけた。

「っう、あ」

 すると突然、斎藤が頬を染め、体を硬直させてうなった。

「どうかいたしましたか、斎藤様?」

 心配して、神歌は斎藤に手を伸ばしたのだが、その手から逃れるように斎藤は身を引いて両手をぶんぶんと胸の前で振った。

「なんでもないっ。なんでもねえからっ!」

 なぜそこまで必死なのだろうか。そんなに自分に触れられるのは嫌なのか。
 いやまあ、斎藤とはほんの数分前に知り合ったばかりだから、そんな図々しいことは言えないのだが、さすがに傷つく。

 はあ、そうですかと神歌は軽く傷ついた内心を悟られないよう曖昧に言って、手を引っ込める。本当にこう言う時って自分が穏やかな口調でしか話せないのが結構助かる。こう言う時だけは切実に思う。




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