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城ノ内家の愉快な人々
「参頁で御座います」


 ――?


 ふと、神歌は背後で悪寒を感じ取り軽く眉をひそめた。先程から何者か(主に麗美)の視線を感じていたのだが、まさかそれだろうか。だとしたらなんて恐ろしいのだろう。こんなに貞操の危機を感じたのは生まれて初めてだ。
 何かにつまずいてこけそうになっていた可愛らしい容姿の男子生徒を放した神歌は、真ん中の一番後ろというまあ何とも微妙な、しかし結構いい場所にある己の席に座っていた。手に持っているのはもちろん神歌の大好きな本だ。

 うららかで、まだ肌寒い季節だというのに全くそれを感じさせない、実に気持ちのいい日差しが教室内に差し込みここ、白木聖男子校高等部の一年S組――つまりは進学クラス中の進学クラスはほのぼのとした平和的な空気が漂っていた。ここは全寮制ではないにしろ寮があるし、基本的にエスカレーター式の学園なので、皆顔見知りが多いらしく楽しそうに談笑している。神歌のように高校からの外部生は珍しいのだ。――だからだろうか。先程から麗美以外の視線を感じるのは。麗美からの視線はもう慣れたもので、主に神歌が兄や弟の頭を撫でたり思わず抱きしめてしまった時に興奮したような視線を感じるのだが、今はもう感じないし、そもそも視線の種類が違った。
 ――興味。好奇心。
 今自分をちらちらと遠慮気味に見てくる新しいクラスメートからはそんな色を乗せた視線を感じる。

(何なのでしょうか……)

 ふう、と軽く嘆息して神歌は本を読むときには必ずかけている黒縁眼鏡のブリッチを押し上げた。


 進学クラス中の進学クラス。頭脳明晰なのはもちろんのこと、家柄も超一流。更には礼儀作法に至るまで優秀なクラス――。それがS組である。噂では容姿端麗でなければ入れないらしいが、神歌はそれを信じていない。なぜならばちゃんと街を歩けばそこら辺にいそうな男子もちゃんといるし、それになにより自分がいる。絶対に信じない。そんな噂は嘘っぱちだ。ただ偶然的に、または必然的にこのS組に美形や美人が多いだけだ。決して容姿端麗でなくては入れないとかそんなことはない。というか、学校というのは学習とかが本業になるべき場所なのに、何故容姿が必要になるのだろうか。やはりあれか。人は古代より美しいものを求め続けるからそのせいか。
 何とも言えないような微妙な心境になり、神歌はとりあえず気にしたら負けだという結論をたたき出して再び本に視線を落とした。

 と。その時。



「あんたが試験で満点合格をたたき出したっていう、あの城ノ内家のご当主さん?」




 何だかいい笑顔を浮かべた爽やかそうな好青年に失礼な感じで呼ばれた。




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あきゅろす。
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