[携帯モード] [URL送信]

傍観者の知るところは
.06


「あの……」

 ギャーギャーと賑やかに騒ぎまくる彼らを傍観しておった儂の耳に、遠慮がちな、しかし良く響く低い声が届いた。ん?と声のした方――つまりは後ろを振り返ってみると、呆れたような白髪の人物が目に入った。

「蓮杖殿――」

 呟いて、儂は先程までチラリと噂しておった人物に笑いかける。

「お早うございます」
「おはようございます。――あの、いつもの事なので気にしても仕方がないと思ってはいるのですが、一応気になるので聞かせていただきます」
「?」
「……会長と鈴さんの喧嘩の原因は――?」
「おちょくり」
「またですか…………」

 がっくり。
 まさにそんな効果音が良く似合うほど、蓮杖殿は脱力して溜息をついた。
 そう、この人物こそ鈴坊が“きゃら”の事でなんたらかんたらとぬかしておった蓮杖 琢巳(れんじょう たくみ)殿じゃ。

 銀寄りの白髪は日の光が反射して、まるで自らが輝いているように美しく、肌も白い。
 おまけに制服も白を主とした生地を使っておるので、全体を通してとにかく『白い』と言う印象がある。
 ただ、その混じりけのない白の中に一つ。存在をやけに主張するかのごとく黒光りする漆黒の瞳が妙に目立っていた。優男の様な雰囲気を出してはいるが、外見はその全く逆で、完全なる美丈夫じゃ。

 そんなキリリとした外見の男前な蓮杖殿が脱力するほど、雷光と鈴坊の喧嘩の原因は同じものじゃ。
 ほとんどは普段からお調子者の鈴坊が雷光をおちょくって喧嘩へと発展するのじゃが、ごく稀に喧嘩を嫌う雷光から仕掛けたりするから手に負えない。そして、そんな二人の喧嘩の後の被害は半端ではなく、その喧嘩の尻拭いをする為に日々この広大な学園内を奔走しておるのが蓮杖殿なのじゃ。
 顔を合わせれば百パーセントの確率で喧嘩をする彼らの尻拭いはこちらが想像する以上に大変らしく、時々蓮杖殿がおっさんの様に肩を回しながら揉む姿を目撃する。

 実のところ、蓮杖殿の白髪は雷光と鈴坊の喧嘩による尻拭いのせいだと儂は思う。ほら、“すとれす”で。

「まぁまぁ。良いではありませぬか。『喧嘩するほど仲が良い』とは良く言ったものです」
「仲が良いなら仲がいいなりの行動をしてほしいのですよ、俺は」

 あぁ、そんなに武器を取りださないで、始末書とか書くの俺なんだから、と悲痛な面持ちで嘆いている蓮杖殿の視線を追い、何かもう壮絶な戦いを繰り広げている雷光と鈴坊を見ながら、儂は喉の奥でくくっ、と笑った。

「止めましょうか」
「――え?」
「ですから、儂があの二人の喧嘩を止めてきましょうか」

 驚いたようにこちらを見上げる蓮杖殿の頭を、いつものように口角だけを上げた笑みで見ながらぽん、と撫でる。

「まぁ、あれです。たまには先輩に任せるのではなく、自分で友達の喧嘩を止めてみようかな、と」

 ――当たり前なのですがね、と苦笑して儂は瞠目したままの蓮杖殿の頭から手を外し、友人二人のところへと赴いた。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!