傍観者の知るところは
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喧嘩は終わったらしいが、未だばちばちと火花を飛ばしておる雷光と鈴坊に苦笑して、儂は自分の席へと腰かける。
「ミーヤービーさーんー」
ぐでーんとした口調で儂の字(あざな)を呼ぶ鈴坊に視線を向ける。
「どうした」
「ヒカリさんを何とかしてくださいよー。俺このまま口喧嘩してたらぜってぇ白髪生えるー」
「よかったではないか――あ、いや。そんなによいものでも無いなぁ。『白髪』と言えばあの人がおる」
おぬしが白髪になったら“きゃら”が被ってしまうのう、と愉快に笑う儂を鈴坊は微妙な顔で見てくる。
「髪の色が同じってだけであの人に近づける奴はいねぇと思うんですよ」
「そうか――? そういうものなのか、雷光?」
「…………」
問う儂をちらりと見た雷光は、しばらく沈黙して深いため息をついた。
もう本当に深いため息じゃ。まるで人生に疲れたおっさんが吐くような。
「痛っ」
考えておったら突然雷光の憎たらしいほど長い脚に脛を蹴られた。何故。
「てめぇがその顔で俺を見るときは大概失礼なこと考えてるからな」
「そ、その顔……」
「いや。決して変な顔とかそんなんじゃねぇぞ。ただてめぇがこっち向いて随分と優しい顔してるってだけだ」
「優しい顔……。それがどうして失礼なことを考えていると――」
「長年の経験だよ!!」
儂の言葉を遮り、だあんっ、と“てーぶる”を思いっきり強く叩く雷光のこめかみには血管が見事なまでに浮いておる。
こわいのう、最近の若モンは短気でいけんわい、と扇子で口元を隠しながらおよよ……と泣きまねをする儂に便乗して、鈴坊がひどいですー、ヒカリさんの暴君ー、生徒会長失格ー、リコールされてしまえー、と口元に手を当てて雷光に言う。「ぶーぶー」という、亜米利加人がよくやるあの“ぽーず”付きじゃ。
「てめぇら、このっ……」
冗談だとは分かっておるはずなのじゃが、やはりむかつくらしい雷光が浮かんだ血管をぶちぶち言わせながら、耐えるように拳を握りしめた。
「ぶーぶー」
「…………」
「およよ……」
「…………」
「カイチョーのぼーくんー」
「………っ」
「ひどいのう、ひどいのう」
「……う、る……」
「ぶーぶー」
「うるせぇぇええええ!!!」
ついに本気で血管を切らせた雷光が般若も泣き喚く形相で殴りかかってきた!
「うるっせぇんだよ、てめぇら! つーかこの気違い! てめぇが一番ムカつくんだよ! 何が『リコールされてしまえ』だ、ああ゛!? 誰のおかげでてめぇら生徒が平和で安全な学園生活を送れてると思ってんだ、この阿呆が! 一遍死ぬか!? むしろ死んでしまえ、ハイさよーなら!!」
「ぎゃー! ほんの冗談に至極真剣に取り合ってくる馬鹿がここにー!」
「はっはっは」
「「笑ってんじゃねぇよ!!」」
全く仲が良いわい。
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