[携帯モード] [URL送信]

傍観者の知るところは
.04


 儂が給仕長と出会ったのはもうずいぶん昔のような気がする。儂は中等部から既にこの学園に在籍しておったが、当時は家事力を上げたいがために食堂は利用せずにいたから、彼と会ったのは――高校一年にあがってからと言う事になるな。
 ともあれ。

 下げていた頭を上げ、姿勢正しく、だけれど低い姿勢を保ちながら儂と目線を合わせる給仕長に軽く笑って、儂は未だ仲良く喧嘩と言うじゃれあいをしている雷光と鈴坊に視線を向けた。ほら、どうせ食事を頼むのであったら、ついでに頼んであげるのが友と言うものであろう。と、言う事で。

「おーい。雷光、鈴坊」
「「あ゛あん!?」」

 呼び掛けただけだというのに思いっきりガンを飛ばしてくる2人に苦笑する。すぐさま、ハッとした表情になって(鈴坊の方は肩が揺れたから分かった事じゃが)態度を改めた2人は、儂が給仕長と一緒に彼らを凝視しているのを見ると、若干気まずそうな雰囲気を出して、互いを一瞥した後フン、と視線をそらした。

「俺は醤油ラーメンでお願いします」

 儂の言わんとする事が分かったらしい鈴坊が、儂が何かを言う前に言った。またらーめんか、あやつ。栄養が偏るぞ。
 鈴坊の注文を聞いて、分かりましたと言わんばかりに微笑んでいる給仕長に、「ついでに栄養素が高いさらだとかもお願い致します」と言う。

「……ステーキ。たれで頼む」

 まあなんとも見た目にそぐわず肉食獣な注文をした雷光に、朝からよくそんなに重たいものが食えるのう、と感心しつつ、例によって頷きながら微笑んでいる給仕長に「炭水化物と、野菜多めでお願い致します」と頼む。

「さて、儂はどれにしようかのう……」

 顎に手を添えて、考える。儂は朝昼晩の三食は、基本和食なのじゃが、いかんせんここの和食“めにゅー”が頭を抱えるほど多くてのう。一応中身は覚えておるのじゃが、そこから一品を選びだすのは至難の業なのじゃ。すんなりと注文出来る雷光と鈴坊を軽く尊敬しておる。
 うんうん、と唸りながら悩み、結局決められそうになかったので、情けなくも給仕長に助けを求めた。

「何かお勧めの物でもありませんか、給仕長」

 尋ねた儂に給仕長は少し考える素振りを見せると、神々しいまでの微笑みを儂に向けてきた。

「そうですね、今日は新鮮な魚介類がたくさん入りましたので、魚介セットなどは如何でしょう」

 おお。

「ふむ。見事に儂の好みの“どすとらいく”ですな。――では、それでよろしくお願い致します」

 魚介類がたくさんのった丼(どんぶり)とかを想像して、儂はにやける顔をそのままに給仕長に頼んだ。さりげなく顔を逸らした給仕長に傷付いたのは秘密じゃ。

 どうせ儂の顔は見られたものじゃ無いですよーだ!




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!