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傍観者の知るところは
.03


「…………」

 ううむ。

「ずず……」

 これは。

「…………仲がいいんですって、会長」
「ああ。聞こえていた」
「どう思います?とりあえず俺は不快ですかね」
「珍しいな、同感だ」

 仲が良いのう。

 バチバチと双方の間に仲良く火花を散らして睨みあっている(鈴坊の表情は分からぬが)2人を、儂は外野で微笑ましく見つめる。儂らの周りにおる生徒たちも微笑ましげにいつもといっていい程行われている2人の喧嘩を見守っている。これぞ本当の平和。素晴らしいものじゃ。

 ずず……と、若干渋めの茶を両の手で支えながらほんわかと啜る。いやあ、美味い。
 渋い中にも懐かしさが感じられる茶の味で、この茶を入れた人がどんな人柄なのか、どれほどの腕なのかが分かる。いやはや、これは文句なしでうまい。目を細めて、剣呑な雰囲気を漂わせつつも平和な喧嘩をしている野性的な黒髪男と狐の仮面をつけている緑髪男、そしてそれを微笑ましげに見守る生徒たちを傍観する。

 なんとも平和で、静かな朝だった。


「つーか、何しに来たんですか、会長。いや何かをしててもいいですからとっととここから出てって下さい。あ、俺の視界から出て行く、と言うのでもかまいませんけどー?」
「お前が出ていけ気違い男。なんだその仮面と髪の色は。校則違反だと何度言ったらわかる。お前の脳みそは本来人が持つべき知識を兼ね備えていないと見えるな」
「はあ?なーに言っちゃってるんですか、こんのバ会長。俺の方だってあんたから注意されるたんびに『これは自毛です』って言ってるじゃあないですか。そっちこそ何度言ったらわかるんですかー?」
「自毛なら自毛で染めろ。何か色々と迷惑だ」
「うっせぇ。誰があんたの言う事なんて聞くかボケ。地獄に堕ちろ」
「奈落に堕ちてしまえ」
「閻魔大王に舌引っこ抜かれて死ね」
「針山地獄で全身刺して死ね」

 因みに不安になったので述べておくが、いつもこんな感じじゃぞ。

「豆腐の角に頭ぶつけて死ね」
「タンスの角に小指ぶつけて死ね」
「あっ、ちっくしょう。こっちが下手に出て柔らかい豆腐にしたのによりにもよってちょっと痛いタンスの角にするとは……。――やるな、バ会長め」
「……お前もや――うわ危ねえ。乗せられるところだった」
「ちぃっ」

 悔しそうに舌打ちをしている鈴坊を横目に、儂は直接給仕長の所に赴き、朝食を頼む。

「給仕ちょ―。おらぬかー?」

 口元に手を当て、さながらやまびこでもするように呼び掛けると、「はいはい、ちょっと待って下さいね」と、いかにも人の良さそうな声が聞こえた。

 ――どんっ。パリーン。ヒヒーン!! あっちょっ、そっちに行ったぞー! 捕まえろー! あなた方、私は少し出てきますのでそちらはよろしくお願い致しますね。


「――はい。お待たせ致しました、和道様。御注文ですか?」
「その前に先程の音の意味についてお教え願いたいが、儂は気にせんぞ。たとえ馬の鳴き声が聞こえたとしても気にせんぞ」
「大変申し訳ありません、ご迷惑になったようで」
「あ、いや。構いませぬよ」

 食堂と厨房の隔たりからわざわざ出てきて、丁寧に腰を曲げるこの人は、先程儂に美味い茶を堪能させてくれた給仕長、皆杳 良人(みなはる よしと)さんと言う名前からしてもう善人っぽい人じゃ。
 長い黒髪をうなじ辺りでくくり、優しげな双眸を軽く細めて微笑んでおる。
 実に美形じゃ。しかも性格がすこぶるいい。

 皆覚えておけ。神は二物も与えず、とは言うが――嘘じゃぞ、あれ。全ては神に愛されるか、または嫌われるか、じゃ。まあ儂は神の存在というものを信じていないが。




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あきゅろす。
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