傍観者の知るところは
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「痛っ」
「いってぇ!」
脳天を貫く痛みに耐えきれず、思わず頭を両手で押さえる。暴君じゃ。善良な一般生徒に暴力をふるう暴君な生徒会長がここにおるぞ。
わしは痛みで込み上げてきた貴重な涙を拭いもせずに、両手で頭を押さえる格好のまま、その暴君生徒会長を見上げた。
「痛い。痛いぞ生徒会長よ。生徒の見本となるべき者が生徒に危害を加えるとは何事じゃ」
「その生徒の行いを正すのが俺の仕事であり役目だ。たとえば昼休みに食堂で人生ゲームをするという迷惑行為をクソ真面目に大勢の一般生徒の前でする阿呆な生徒の行いは正すべきだろう」
「儂が言うておるのはそういう事ではなく、生徒の見本となるべき生徒会長が生徒に暴力行為をしてもいいのか、と言う事じゃ」
「……てめぇ等2人が話して聞くような奴等だったら俺だって話し合いとかをしたんだが」
「――。おおー。痛いのう。痛いのう」
「話を脱線させてたまるか」
鋭い眼光を細めてこめかみに青筋を立てるのは、生徒会長もとい、儂の同室者――黒神 雷光(くろかみ らいこう)。野性的な男じゃ。ただし“いけめん”じゃ。
雷光は、今日も厭味ったらしくその長身を使って儂を見下ろしてくる。畜生め。おぬしのほうが5せんちばかりでかいからって、そんな毎回毎回儂との身長差を見せびらかさなくてもいいではないかっ。
「この背高(せいたか)のっぽが」
「わけがわからない」
真剣な顔をして呆れたように返答する雷光の脛に思い切り蹴りを入れる。
「いっ!?」
屈み込んで脛を抑える生徒会長を、ここぞとばかりに儂は見下ろした。雷光がこちらを涙目で見上げるのを確認して、高圧的に指をさす代わりに桜模様の扇子をその黒髪に向かってさした。
「儂を見下ろすでないわ、小童。その無駄に長い脚切断するぞ」
「いや怖いですから。……ちょっ。腰に差している刀を徐(おもむろ)に抜こうとするのやめてください」
先程まで、雷光から身を隠すように近くの小柄な愛くるしい生徒の背中に隠れていた鈴坊が慌てたように止めてきたので、とりあえずやめてやる。冗談なのにのう。
はっはっはと笑う。
「冗談じゃ、冗談」
「――の割には本気で蹴ってきやがって……」「その割には結構本気で会長の足切り落そうとしてませんでした?」
見事に雷光と鈴坊の声が“はみんぐ”したものじゃから、儂は思わず「おおっ」と感嘆の声を上げる。
「凄いのう。仮にも他人同士が儂に同時に非難の声を浴びせるとは…………仲が良いのう」
「「…………」」
近くの椅子にどっかりと座りこんではっはっはと笑う。近くの生徒が持ってきてくれた渋めの茶を「すまぬな」と言って受け取り、ずず……とすすっていると、2人が沈黙したのでとりあえず見てみた。
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