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傍観者の知るところは
を読んだ傍観者


「ふむ……」

 か細い蝋燭の灯だけが儂の手元にある洋書を照らす和室で、儂は今日図書館で借りたなんか内容が重い本を読んでいる。

「借りる本を間違えてしもうたのう……」

 一ページ目を読んだ瞬間、内容の重さに読む気が失せたが、何もすることがないし借りた本は最後まで読むのが儂の『るーる』故、結局こんな夜になるまで読んでしもうた。ふつうに後悔しておる。あれじゃ。儂はこんな重たい本は身体が拒否反応を起こすのじゃ。儂はもっと内容が軽い本が好みなのじゃ。重い本を読むと気分が悪くなる。

「ふむ…………」

 終始内容が重い本を読んだ儂は、胸の奥がざわざわと気持ち悪くなり、誤魔化す為に眉間に出来た皺を揉みながら唸った。

「……静雅(せいが)?」

 襖が開き、そこから儂の同室者が顔を覗かせる。

「てめぇ、まだ起きてやがったのか」

 音もなく静かにこちらへ歩いてくる同室者を見れば、少しだけ胸のざわめきが消える。野生の獣を思わせる赤い瞳を心配そうに細める同室者に目を向けず、眉間の皺を揉みながら微かに微笑めば、奴は一瞬だけ立ち止り、また静かに歩きだした。同室者の方を見ずとも奴の表情が分かるのは、やはり長年一緒に暮らしてきたからかのう。そのせいでおぬしの凶悪な面(つら)も感情が読み取れて可笑しくなる。

 眉間に盛大な皺を寄せているくせに心配げな瞳で見てくるってどういう事じゃ。

「天寺の坊主に勧められた洋書を読んでおったのじゃ。意外と文字数が多かった故、こんなに遅くまで起きる羽目になったのだよ」
「…………天寺、――あぁ。物語編成クラブとかいう頭の悪そうな部活の部長か」
「む?おぬしが他人を覚えるとは珍しい。やはりあやつの人格は強烈じゃからのう」

 眉間の皺も解れて、改めて同室者に向き直りながらふむふむと頷く。さすがのこやつも鈴坊(りんぼう)の名前くらいは覚えるのじゃなぁ。腕を組み、目を閉じてわしは真剣に頷く。

「良い事じゃ」
「…………毎日の如くてめぇと絡んできやがったら嫌でも覚えるっつーの」
「ん?何じゃ?」
「…………」

 同室者が何かを言ったようで、尋ねてみたら顔を背けられた。まぁ、恐らくそれほど大事な事ではないらしいので気にはせんが。
 さすがに眠たくなった儂は、口元に寝巻(着物)の袖を持っていき同室者に口が見えないように小さく欠伸をする。眠い。




「……早く寝ろ、静雅」
「うむ。………一緒に寝るか?」
「…………襲うぞ」
「返り討ちにしてやるわい。――悪かった悪かった。ちょっとした冗談じゃ。……怖いから。おぬしの顔は元から超怖いからガンガン睨むの止めて」
「…………」
「ふふ。おやすみ、雷光(らいこう)」
「……………おやすみ、静雅」


 * * *




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