傍観者の知るところは .10 山岡、琢巳。 何というか、ウマが合いそうでどうしても合わぬ、しかしいざという時には不思議なほど息がぴったりになる、いわば悪友じゃ。 情報通で知られる鈴坊すらも振りまわせるほどの情報網を張り巡らせて、最近は鈴坊も混ぜた三人で校内を儂らのいたずらで埋め尽くす。 裏方じゃが、表に出てくる鈴坊や儂と違い、完全なる裏方。儂らのいたずらをさぽーとし、やばい時には真っ先に知らせてくれるありがたい存在じゃ。しかし今のように“りあるとーん”での衝突も多い。 何故だか相手のその日の体温とか気分とか性欲とかを知り尽くしておるので、儂の中では最も敵に回したくない男じゃの。 因みに同じ情報通でも鈴坊は医者で言うところの「外科」じゃ。相手の家庭事情やそういった誰も知らぬ個人情報を集めるのが得意で、対して山岡は「内科」。 先程も述べたとおり、「そんな事、何故知っている、この野郎」みたいな俳句が出来そうなほど、その人すら知らない情報を集めるのが得意。 前に、鈴坊に下着の色とか柄を言い当てられた時は驚いたが、山岡に「静雅、随分疲れてらっしゃるよぉで? え、なに? 気づいてねーんどすか? うわっ、にぶっ。鈍スケばーか」とか大変腹の立つ事を言われた時は、驚きながらも引いてしまった。 初めてじゃ。この儂が後ずさるなど。顔はひきつっておったしな。 美形の多いこの学園で、山岡も例にもれず美形じゃ。背は、儂より少し小さいくらい。 まあこんなむかつく奴が儂より背が高かったら、儂はこやつと悪友になどなっていなかっただろう。天敵じゃ。 先程も述べたが、山岡の口調はどこの方言なのか分からない。 大阪や、京都らへんの方言だと勘違いしまいがちだがどうも違う。いろんな地方の方言を織り交ぜたような口調でしゃべる。しょっちゅう標準語にもなったりする。かと思えば江戸時代にいたような人の口調で喋ったりする。 つまりはよく分からん奴じゃ。分かりたくもないが。 「えーっと、今日の議論は転入生についてだ。皆も分かってるたぁ思うが、奴は生徒会役員たちに数々の迷惑をかけて、挙句の果てに仕事の進行にまで支障をきたしてやがる。よって、今日は『転入生をどうやって転校生にさせよう』をテーマに15分間話し合おう」 儂らの“ほーむるーむ”は15分間。その15分間で、儂ら役持ちくらすの者は議論を行う。 一般生徒とは違う特権を与えられた儂らは、それに見合った実力もある。そして、その実力を腐らせないために、各自が能力を発揮できるように話し合う。 1年も、2年も、3年も、役持ちくらすの者は皆こうしている。ある意味伝統的習慣じゃ。いい学校だと思う、儂は。 伝統的習慣と言っても、転入生にあまり興味がない儂は、皆が議論するのを爪楊枝を歯で挟みながら聞く。 「その前に、はーい。せんせー、会長はここにいるのに、何でほかの2年役員はいないんですかー? もしかして会長は仕事をサボってるんですかー? それとも――」 「サボってはねえよ、安心しろ」 すかさず雷光が反撃(?)する。よしっ、いいぞ、雷光。おぬしの事を悪く言う奴なんて猛攻撃してしまえ! なんなら加勢してやるぞ! 肘をついた雷光は、今しがた発言した奴を振り向いて言った。 「俺は、役員の中でもあいつが嫌いってぇ設定だから、ここに来れた。あいつらは奴を引きとめて奴の相手をしてくれている。文句があんなら聞くが」 「…………」 「――話を変えます。今噂になっている生徒会の方々が転入生に惚れ込んでいるというのは、今の会長の言い分からでは想像しがたいのですが、実際の所どうなんですか」 「嘘だ、あいつらがあんな気持ちの悪い奴に惚れ込むほど趣味の悪い野郎だと思うな。ありゃあ、惚れ込んだように見せかけてるんだよ」 「それは、何故ですか」 「……………それは俺たちの家に関係してくるから、答えられねぇ」 ここにきて初めて雷光の口ぶりに険しさが混じる。 家の問題? 何じゃそれは。儂は聞いておらんぞ、そんなこと。 「雷光」 話を中断させるのは悪いが、聞かせてもらう。 「どういう事じゃ。話せ」 「……駄目だ」 「…………」 自然と目が細くなっていく。そうか、儂にも話せぬか。2人だけの空間でも話したくないと言うのか。 雷光の目を見て、そう確信する。 もちろん、雷光には雷光なりの考えがあるのだろうが、それでも何だか寂しいぞ。そんなに儂は頼りないか。儂にも話せぬ事か。 寂しくなって、儂は少しばかり眉を下げながらそうか、と呟いて前を向いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |