傍観者の知るところは
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「いただきます」
「礼儀正しいのは結構だがHR中に飯食うのは先生止めて欲しいなー」
引き攣った顔で食堂から運んでもらった海鮮丼を食そうとしておる儂を見るのは、儂の所属する――何じゃったかな、……役持ち。そうじゃそうじゃ。役持ちクラスの担任、山田 幸助(やまだ こうすけ)通称山ピーじゃ。
「まぁまぁ山ひー。ふぁしふぁひにへふ」
「ごめん。なんとなく分かるがなんて言ってるかわっかんねーや、先生」
もういっそ優しすぎるまでの微笑みをたたえて、山ピーは儂を、名簿でその肩をたたきながら見る。
因みに儂は最前列なので、今山ピーとはまんつーまんで会話しておる。周りには儂らの会話を見慣れたように見守るくらすめいと。
隣には雷光がおる。奴は呆れたようにこちらをみてから、眉を下げて山ピーを見た。
「ホント、すみません……山ピー先生」
「……うん。なんつーかさぁ。何でお前らは見た目と性格が真逆なんだろう」
「こんな奴に何年も付き合ってたら自然とこんな性格になっちまったんスよ」
「苦労してんなぁ、黒神」
「いえ」
しみじみとした雰囲気で会話をする二人を周りは憐れんだ目で、儂は不思議に見る。
もぐもぐと咀嚼し終わった食べ物を喉に通らせて、儂は若干真剣に雷光を見つめた。
「雷光」
「ん?」
「何故おぬしが謝るのじゃ。ここで謝るべきは儂であっておぬしではないぞ」
「分かってんならその行為を止めてくれねぇかなぁ」
ピキ、とこめかみに青筋を立てて綺麗に微笑む雷光。
しょうがないよ。
だって食べたいんだもん。
「あ、今すげームカついた」
「はっはっは。ばれたか」
「お前が見るからに優しい顔してたから」
「何気に失礼――ひゃほう」
「……? ひゃほう? 何喜んでんだ」
「ひひゃふ、ひひゃふ。ふってほひゅほひゃ(違う違う。食っておるのじゃ)」
「もの口に入れたまま喋ってんじゃねぇ、行儀悪ぃ」
「…………」
取り合えず黙って咀嚼する。ほんに失礼な奴じゃのう。
もぐもぐと行儀よく、しかし若干不機嫌になって眉を寄せながらもさもさと顎を動かす儂を見てから、山ピーは感心したように雷光を見た。
その「助かった」ともろに言わんばかりの表情!
儂、久しぶりに殺意を覚えたぞ。
「……老人は労わるべきじゃ」
ぼそっ、と儂は雷光とは反対に視線を下げながら呟いた。
それに突っ込む者が約一名。
「若ぇくせによう言うわ」
肘をつきながら面白そうに瞳を歪ませて、そいつはどこの方言かも分からぬ言葉をその口から紡ぎだす。
「何ですかい、今度は。食堂を半壊させたまま逃げ出したぁ言うて蓮杖の白髪が落ち込んどりまっせ? 少しは気ぃ使ってやんなさいね」
「…………ハッ」
思わず、鼻から馬鹿にした息がもれる。たぶん、顔の方もさぞかし小馬鹿にしたようにそいつを見やっているのじゃろう。
「よう言うわい。儂らの騒ぎを一番楽しみにしておるのは貴様の方だというのに」
「クッ、クククッ」
「この、性悪が」
「あんさんに言われとぉないなぁ。この外道が」
「フン」
儂が口角だけを上げてにやりと笑うと、そいつはまた狐のように目を細めて、役称名を「性悪」と定められた山岡 琢巳(やまおか たくみ)は歪んだ笑いを漏らした。
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