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傍観者の知るところは
.08


「『無礼は承知。無知も承知。――だけどとめて見せましょう――』」

 我が尊敬すべき父上がよう言っておった言葉を、言葉通り無礼は承知で引用させてもらう。


 刀、と言ってもあれじゃ。

 唯の木刀じゃ。
 いやのう。つい一週間前に悪戯心で夜の校舎の窓を片っ端から割っておったら、残業中じゃった風紀委員長に儂の愛用する刀を没収されてしまったのじゃ。
 あの時はほんにあやつを恨んだが、今は木刀も悪くないとさえ思える。




 切れる、からのう。




「――これ以上、己の血を見とうなかったら引くがよいぞ愚か者」

 常に、二本常備している木刀を逆さに持って、雷光と鈴坊の頸動脈を正確に押し当てる。
 双方の首からは血が流れているものの、威嚇程度でやったモノじゃからあまり心配せんでもよいじゃろう。儂とて親しい者を本気で殺すわけではない。
 時々「殺られる!」みたいな目で見られるが。もちろんそういう輩には冗談程度で殺っておく。翌日何故か謝ろうと声を掛けただけで軽く過呼吸になられるのは儂の中にある七不思議の一つじゃ。

 木刀の先を二人の首に押し当てながら、儂は口角を上げて薄く笑う。
 と、まぁこちらも二人を動きたくても動けない状況にしておるから、軽く声をあげて笑いながら木刀の先を二人の首から離す。
 一気にほぅっ、と冷や汗を掻きながら安心したような息を吐く雷光と鈴坊に、儂はそんなにやったつもりはないんじゃがのう、と苦笑した。

「お前の冗談はアレだよな、一般人にとっての本気だよな」
「うんうん。本気と書いてマジと読む、みたいな」

 木刀を振って、付いた血を掃ってから再び腰に差す儂を呆れたように見ながら、雷光と鈴坊は武器を片付けてわけの分からん事を言った。

「何を言うておる。あれが本気だと言うのなら儂の家は常に本気ではないか」
「いや、お前の家は論外だから」
「……そんなに凄いんですか? ミヤビさん家って」
「ああ、お前は行った事なかったな。……まぁ正直、行かなければよかったと後で後悔するから行かねぇ方がいいんだがな」
「うわぁ気になる」
「待て待て待て、何おぬし等本人の前で失礼なことを普通に言うておるのじゃ」
 
 馬鹿にされた気がしてちょっと苛ついたので、雷光と鈴坊の壮絶な戦い的なやつがあった近辺にもかかわらず、無事に生き残っていた可愛らしい花を一本掴み、雷光の頭上へ植え付けるように立たせる。

「…………」
「ぎゃはははは!!」
「……うむ。よう似合うておるぞ、我が友よ。出来ればその姿で儂に近づくのは止めて欲しいの」
「てめえこの野郎ー――――――――!!」

 さり気なく撤退しておった儂と鈴坊に何故か激昂した感じの雷光が、頭上に咲く一輪の花を優しく取って元の花瓶に戻してから襲いかかった。
 顔が真っ赤なのは怒りなのか照れなのか。

 おそらく両方なのじゃろうが、大半を占めているのは前者であろう。
 じゃが面白くなってきた儂は鈴坊と一緒に雷光から全力で逃げながら奴を茶化す。

「そんなに顔を真っ赤にさせおって……照れか? 照れておるのか?」
「待たねぇかこのくそ野郎共が!!」
「なははははー。くそに言われちゃったぜ一生の不覚! 俺落ち込み過ぎてしばらく登校しないかもしれませーン」
「何でもいいから一遍殴らせろぉおおおお!!」
「騒がしい奴じゃの……。あ、蓮杖殿。食堂の後片付けはお願い致します」
「なははー。――およ、蓮杖隊長いつの間にこんな所へ? まあいいや。事態の収拾とか頑張ってくださいねー」
「待てぇー―――!! ――先輩申し訳ねぇが食堂はよろしく頼みます!」

 一通りの波乱を、雷光と鈴坊の喧嘩のせいで荒れ狂った食堂に残して行き、儂らは戯れながら駆けてゆく。

 儂らが去った食堂には何とも言えない静寂が漂っていたが、やがて事態を暫く理解した蓮杖殿が正気に戻って、

「………………あの人たち、俺に面倒事全部押しつけやがったなぁ!?」

 と叫んでいたのは儂らの預かり知らんことじゃ。
 そして、次々と正気に戻った生徒たちの笑い声が木霊しておったのも、儂らの知る由ではなかった。



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あきゅろす。
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