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バレンタイン・イヴ(獄ハル)



2月13日、放課後。

「こんにちはーっ」

ご苦労なことに飽きもせず、せっせと通い妻よろしく並盛中学校までやってくる。
少女の名前は三浦ハル。

「十代目ならもう帰ったぜ」

鉢合わせた獄寺がぶっきらぼうにそう言うと、
ハルはきょとんとした。

「今日はツナさんじゃなくて獄寺さんに会いに来たんです」

意外な答えに目を瞠はる。
獄寺は、横を素通りして行こうとしたのに思わず振り返ってしまった。

「俺?……なんで」

ハルはにっこり笑った。

「チョコレートを食べてもらいたくて」







要するにハルは明日綱吉に渡すためのチョコを誰かに味見してもらいたいらしい。
その為に来たんだと。

「俺じゃなくてもいいだろ」

帰りたい獄寺は時計を見やる。
ハルはがさがさと鞄を漁りながら答えた。

「はい。でも京子ちゃんは今日はお兄さんの部活に付き合ってるらしくて。それに山本さんも部活です。だから仕方なく獄寺さんで妥協することにしたんです。獄寺さんは暇そうなので」

この女……ナメてやがる……!
しかし悔しいことに間違ってはいないため反論できなかった。

「とゆーことで、食べてくださいっ」

ぱっと差し出されたチョコレートを
受け取ろうか突き返そうか悩んだ。いや、できれば無視して帰りたい。

「……」

無言で獄寺はチョコを受け取って適当にその辺にしゃがみ込んだ。







追い返すのも面倒だったのだととりあえず言い訳しておく。

しかめっ面でチョコを食す獄寺の隣でハルは膝を抱えた。

「獄寺さんは甘いものが嫌いなんですか?」

「別に嫌いじゃねえよ。好きでもねーけど」

ハルは少し緊張した面持ちで獄寺を覗きこむようにしている。
正直、あんまり見られていると食べづらいのだが。

「あの」

思い切ったように隣の少女が口を開いた。

「まずい……です、か」

いつになく自信のない声だった。仏頂面で食べていたのが誤解されたのだろう。

なんとなく、冗談や意地悪で「まずい」と言ってやれるような雰囲気じゃなかった。
ハルの様子から真剣に作ったものなんだと分かって
早く帰りたいからなんて理由でばくばくと食べていたのが悪い気がした。

「まあ食えるぜ」

だが素直に「おいしい」と言えるようなキャラでもなかった。

それでもハルはぱっと顔を輝かせる。

「本当ですか!」

「お、おう。これなら十代目に差し上げても問題ねえな」

「よかったー!獄寺さん、ありがとうございます」

途端へにゃっと笑って、ハルが心底ほっとして息をついた。
獄寺は、彼女があんまり喜んでいるので思わず面食らってしまった。
気付かれないうちに、慌てて視線をそらした。






2月14日。

バレンタイン当日、やたら浮かれた空気だった学校も終わり、獄寺は綱吉と並んで帰り道を歩いていた。

はあ、と獄寺はため息をつく。
ようやく落ち着けた。

そんな獄寺の様子を見て綱吉は尋ねる。

「獄寺君は今年も全部のチョコを断ったの?」

苦笑いしながらの問い掛け。
今年も獄寺はそこそこモテていた。

彼は「もちろんっすよ!」と頷こうとして
脳裏に少女の姿がよぎった。

「……」

返らない答えに綱吉は彼を見上げる。

「獄寺君?」

「ああ、いえ、なんでもありません!」

それからまた、ふと黙る。

あいつのは、ノーカウントだろう、か。

昨日のことだし、
それにあれは俺のためのもんじゃなかった。

それでも思い返してみれば、浮かぶのは、チョコレートの甘い味と匂い、笑顔。







「……十代目はどーなんすか?」

「えっ、お、俺?」

結局、獄寺は答えられずにはぐらかした。








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バレンタイン小説でした。
骸髑とかゼロリナとか考えていたけど獄ハル以外思いつきませんでした(^¬^)

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