幻水学園高等部
中庭A (坊ちゃん)
1階に降りて窓を開ければ、ティルくんは待ってたと言わんばかりの笑顔で
「やぁ、趣味:人間観察のユメちゃん」
と迎えてくれた。
(そういえば、あたし入学後のHRでそんなこと言った気がする)
(すごい記憶力‥)
「本当すいません。反省してます。
なんか面白くって、つい‥」
「フラれちゃったのを面白がられてもなぁ。
でも、見応えあったでしょ?」
「み‥見応え?
まぁ、うん‥ドラマっぽかった」
「真面目で優等生な学級委員長に、ちょっとミステリアスで美人な彼女。あんなヘタレなルックより、絶対俺のがお似合いなのに」
「それ‥自分で言う?」
「このくらい許されるよ」
「ふーん」
ちょっと切なそうに彼が言うので、あたしもそんな彼を応援したい気がしてきた。
「あの2人のこと知ってた?」
「彼女は見たことあったけど知らなかった。
ルックくんは人気あるしよく話題に出るから知ってた。図書室で話し掛けたら睨まれたとかね。親しい女の子がいるなんて聞いたことなかったけど」
それから、気になったことを聞いてみる。
「ねぇ、最後に彼女になんて言ったの?」
「ああ、あれ?
『俺は君が好きだよ』って言っただけ」
「それだけ?なんかイメージ違う‥」
「彼女、大人びてるくせに可愛いところあるんだよね。初々しいっていうか。
意外に効果あっただろ?‥だから、言葉は『力』なんだ。
きっと今頃ルックも彼女に同じこと聞いてるだろうね」
「‥あ、
あたし、ルックくんから本預かったん‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ねぇ、
彼女をここに呼び出したのティルくん?」
「そうだけど?」
けろっと「明日俺から渡しとくよ」なんて私から本を受け取りながら言う。
「‥どうして?」
‥‥ああ、なんかあたしまで切なくなってきたよ。
マジで泣ける。
なんてやつだ、学級委員長!
「どうして?こんなとこ選ぶのよ?
こんな図書室近い廊下から丸見えで‥‥ルックくんがここ通るかもしれないことなんて十分考えられるのに‥。
だいたい、あたしのこともルックくんのことも、最初っから気付いてたんでしょ?
告白って言ったって、これじゃティルくんが損するだけ‥。
結局全部あの2人のためのお芝居じゃない!」
馬鹿だよ!
好きなんでしょ?彼女のこと。
‥なのに、
「‥なんで君が泣くんだ‥。
困ったな‥‥‥‥あの娘はね、自分で気付いてないだけで本当はルックが大好きなんだ。‥昔から。
もともと俺の入る余地なんてなかったさ。
そんなことはずっとわかってた。
これでルックも目が覚めただろうし‥俺も安心して次に進める。
‥‥実を言えば、『もしかしたら』っていう淡い期待もあったし‥完全に玉砕覚悟だった訳じゃない。
ルックだって通ると決まってたわけでもない。
ただ、俺には運がなかったってだけだ。だから、後悔はない。
‥君が俺の代わりに泣く必要もない」
「‥‥青春、だね」
鼻をすすりながら言ったら笑われた。
「あはは、君、本当面白いね。
君だってその中にいるだろ?」
「あたしは、そういうの見てる方が好き」
「残念だな、
もう取り込まれてしまってるよ?」
「え?」
「だって、もう惚れちゃったでしょ?‥俺に」
(‥あ‥あれ?
なんか、そんな気もしてきた?)
(ちょっと待て!)
「俺と『友達以上恋人未満』から始めない?」
「‥‥スタート地点‥違うよね‥確実に‥」
あはは、じゃないよ!
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