g.short
子供のあたしと寂しさと。
「あー、雨音、そのファイル!
それ観たかったやつ!」
「ちょー面白かった!
絶対観た方が良いよ!」
「えええ、雨音も観たいって言ってたから、あたし雨音と一緒に行こうと思ってたのに〜」
「はは、残念でした」
「この彼氏持ちめ!」
「持つべきものは優しい優しい彼氏ですぞ!退はあげないけどね!」
「うぇー。いらないしー。バカップルがいるよー」
「ははっ。でも、早目に行った方が良いよ、そろそろ終わるから」
「…………ね、あたしともう一度行かない?」
「退との思い出大事にとっときたいので!」
「やっぱな!ちくしょーバカップル!!」
「ごめーん」
「誠意が感じられない…。
はぁー、じゃ、いーや、一人で行くよ」
「え、なら…沖田くん連れ出せば良いじゃん」
「あ、銀八きた。じゃね」
幼馴染みに彼女が出来た。
それまで、あたしはずっと、幼馴染みとしかつるんでなくて、正直女子とは付き合い方がわからなくて。まぁ浮いてたと思う。
ただ、ものすごく臆病なだけなんだけどね。
で、幼馴染みの退が射止めた雨音という女の子は、びっくりするくらいに良い子で。
あたしは初めて、親友って呼べる女の子を得たのでした。
退に彼女が出来たって雨音を紹介されたとき、あたしが感じたのは、ただただの困惑だった。
ふーん。彼女ね。
…………彼女?
恋愛とか、そういうの、
周りはいろいろ忙しそうだし大変そうだなって思ってた。
まさか自分の身近に存在するとは思ってなかった。
いつも馬鹿なことしかしないあたし達幼馴染みには無縁だろうなって思ってたから。
バカップルとしか言えない退と雨音を間近で見ている今も、あたしはなんとなく不思議な気分でいたりする。
「じゃあねー!また明日ー!」
放課後、雨音が手を振ってきて、その後ろには退が同じ台詞を同じ様に手を振って言っていた。
やれやれ。と、いつも通りバカップルめ、とあたしも手を振る。
そうか、今日は部活無い日だったのか。
いつもは部活の無いあたしと雨音で帰るけど、部活の無い日はバカップルデーだからあたしは一緒に帰らない。
そういう日は、
「おい」
「ん。」
「帰る」
こうしていつの間にか幼馴染みが「帰るぞ」って現れるのだ。
「あれ、トシとボスは?」
「委員会」
「ああ。」
なんとも思ってなかった。
だって、小学生から、当たり前のことだったから。
「そーいや、いつにしやす?」
「何の話?」
「映画」
「映画?」
「土曜は部活、午前だけなんで土曜で」
「いやいや、え。あ!雨音が退に言ったんだな!あいつら!」
「で。土曜行くのか行かねーのか」
「くそっ、行くよ!行くともさ!」
「時間調べとけよ」
「りょーかい。
あ、じゃあ総悟、うちでお昼食べたら?」
「あー、そうする」
「ん。母さんに言っとく」
「よろしく」
いつもみたいに、じゃねー、と家の前で別れて。
母さんにただいまと土曜のお昼に総悟も来るよと伝えて。
最近退くんは来ないわね、という母さんに、あいつらバカップルだからねと笑って。
部屋に帰って着替えて。
ベッドにダイブ。
はぁー、と布団に溜め息が吸い込まれていく。
「やってもたー…」
だめだなぁ。だめだなぁ。だめだなぁ。
最近、こればっかりだ。
あたし、このままじゃ本当にだめだと思う。
だめになる。
いつもいつも、あたしは一人で何も出来ない。
いつもいつも、あたしは誰かに助けてもらってる。
自分じゃ何も出来ない。
でも、助けて、とも頼んだこともない。
みんなが助けてくれてたから。
だから、あたし、一人じゃなかった。
退に彼女が出来た。
ボスに好きな人が出来た。
トシにも、総悟にも、ファンなるものがいるらしい。
前に進めてないのは、あたしだけ。
だから、あたし、一人になろうと思ったんだ。
一人で何でも出来るようになれば、って。
総悟がいなくても、大丈夫って。
だから。
ほんとは総悟にだけは助けてもらいたくなかった。
「なーんて。……さいてーだなあたし」
映画。
観たいな。
総悟、付き合ってくれるかな。
帰り。
今日は雨音がいないのか。
トシたちは委員会でも、総悟はいるよね。
『沖田先輩…ほんとカッコイイよね!』
はは。あの総悟のこと、カッコイイだって。
『沖田先輩がいるから、ウチは最強っす!』
うん。トシもボスも、総悟も、強いよね。
もうさ、人気者の総悟と、一人じゃ何も出来ないあたしじゃさ、世界が違うんだよ。
総悟が、退が、トシが、ボスが、
きっと一緒にいてくれるって。
期待してる自分を自覚する度に、
みんながいなくなったら、あたしどうなるんだろうって、ゾッとする。
みんなそれぞれの世界を広げているのに、何もないのはあたしだけ。
ねぇ。
どうしたらいいんだろうね。
最近ね。
みんなといると、寂しいんだよ。
答えなんか出そうもない。
ただ、布団がぬるくなっていくだけだった。
2016.6.9.
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