g.short 明後日、顔見に行こっかな。(山崎?) 潜伏先でエクソシスト目指しちゃう退と、副長、副長の昔馴染みのヒロイン三角形話。 「もしもし?…ザキヤマ?」 『あれ、……幻聴かな…ははっ、 もう駄目だ。…夢乃隊長の声が聞こえる……』 「はァ?」 何言ってんだ、コイツは。 「ちょっとコイツどうしたの一体」と目線だけで向かいの土方十四郎に訴えかけるも。 奴はしかめっ面のまま、煙草の煙を盛大に吐き出すだけだった。 それ溜め息かコラ。シカトかコラ。 山崎から報告の電話を受けた土方十四郎はしばらく無言で聞いた後、「代われ」の一言で電話を私に差し出してきた。 何かと思って出てみると、延々と山崎が意味のわからない嘆きを吐き出していて。 一体何がどうしたのかと話し掛けたのが冒頭。 『やばいやばいやばい。 とうとう俺、土方さんの声まで都合よく脳内変換出来るようになりました!』 「あんた、ほんと何言ってんの」 『あー…夢乃隊長の声だー…』 「…そりゃあ、そうだろ。 土方君じゃなくて私、本人だから」 『……………………………………………………… ………………………え……………』 「………ザキヤマ?…もしもし?」 『……………っませんしたァアアア!!』 うっるさ! 何、何なのほんと。 電話ごしとはいえ、耳に当ててるスピーカーから絶叫が聞こえると、軽くこれ攻撃の1種だと思うよね。 向かいの土方十四郎にも絶叫が聞こえたらしく眉間のシワが増している。 土方君…私にこれ押し付けただろ。 あとで肉まん奢れよ、…期間限定の黒豚のやつ。 「うるっさい! 何なのほんと!少し落ち着けバカ!」 『はっ、はいぃぃい! すいませんすいませんすいません!』 「あーもー、そのテンションどうにかなんないの?」 『だって、俺、夢乃隊長の声聞けるとか嬉しすぎて…もう、感極まってマジ泣きそうっす』 「はァ!?」 ほんと何これ。土方十四郎を更に強く睨み付けてみると、相変わらず煙草を堪能しつつ、静かに首を横に振り出した。 いや、これ、私のじゃなくて、あんたの部下だからね? 「いいから、ちょっと落ち着いて説明して。 定期報告じゃないの?なんかあったの?スピーカーにするから、ほら、土方君にもちゃんと報告しなさい」 『……うぅ…これからの定期報告で、必ず夢乃さんと話せるなら…ぐすっ…』 きも。なんでマジで涙ぐんでんの。 「……………許可する」 「…はァ?」 なんで土方君が答えるかな! 『ふくちょう…!…あざっす!! これで、俺は…まだ、…まだ頑張れます…!!』 「あー…なんか勝手に話ついてんの意味わかんないんだけど。…とにかく、報告さっさとして」 『えぇと、この3日の対象の動きですが、問題はありません。 日中は定食屋でバイト。午後は授業。 ただ、今日は午前中、一度尾行をまかれまして』 「…オイ。問題大有りじゃねぇか」 「大有りだね」 『だって、あのエリート眼鏡が一緒だったんですよ! 沖田隊長でも口先でやり込められる相手に俺が敵うわけがないじゃないですか!』 「男がだってとか言い訳しないの!」 『す、すいませんん!』 まぁ気持ちもわかるけど。 沖田君と万事屋サンがしてやられたエリート眼鏡っていうのにはとても興味がある。あれ、ホクロ眼鏡だったかな? 沖田君の覇気にも気圧されず、 山崎の尾行にまで気が付く(尾行や待ち伏せに関しては沖田君より山崎のが上だろう)。 ちょっと半端なさ過ぎるんじゃない? 『でも、行き先はわかってます! 万事屋でした。 その後でですが、対象が再度一人で万事屋に行って刀を受け取ったようです。 これは旦那にも確認したんで間違いありません』 「刀を?」 目を細めて怪訝な表情の土方十四郎。 『小振りの脇差しでした』 「要注意ね…」 確か対象は攘夷志士だった過去がある。 今も活動をしていないかと調査しようにも、対象の今の居場所が幕府も手を出せない不可侵規定のある組織だったりして。山崎がこっそり潜入捜査をすることになったのだ。 不可侵規定? なにそれ、バレなきゃ良くない?精神だ。 『いや、あれ、たぶん大丈夫だと思います。攘夷志士との接点はほぼ無いですからね。 旦那とは関わっても、結局旦那もそっち側じゃないでしょう。今は。 たぶん護身用とか、悪魔に対して用意したんだと思いますよ。 絶対必要ですもん。…あ、俺の刀も届けてもらえますか? 武器なしじゃ無理ですマジで』 「ああ、わかった。届けさせる」 『ありがとうございます、副長』 なんだろう。なんか、変な単語が混ざってなかった? あれ?私だけ?違和感あったの私だけ? 「…………悪魔…?」 ぼそ、とその単語を出すと、土方十四郎が伏せ目がちにまた首を横に振って、煙草をもう一本取り出した。 やれやれって感じで。 いや、やれやれっておかしいだろ。絶対。 私変なこと言ってなくない? 『あ、夢乃隊長には報告いってませんでした?』 「きてない」 『俺、今、悪魔退治の専門学校にいるんすよ。ははははは』 まさか不可侵組織が悪魔退治専門の組織だとは思わなかったですよねはははははは。 山崎が息継ぎもなく笑い出した。 「ちょ、大丈夫…山崎…?」 笑いがスゴい乾いてるよ、とか。 いろんな意味で。 『大真面目に悪魔について授業して、その種類とか、被害とか、対処法とか…!最初、俺、ほんと騙されてるっつーかハメられてる?とかって思ったんすけど、なんか見えるようになったんすよ、悪魔っていうの。そしたら、街の中にもモヤモヤモヤモヤ黒いのが浮遊してるのとか見えちゃうし、え、マジこれ現実か、的な感じで、もうそれ系の存在がいるって信じないと俺、健全な精神もう保てないんですよね。だって、いるんすよ。見えるんですよ。悪魔マジ怖いっす。こないだなんか、俺、カエルに追い掛けられて…!死ぬかと思った…!』 「……カエルで、…死ぬ…?」 『人なんかペロリ。サイズのカエルです』 「へ、へぇ。そんなカエルがいるのねぇ…世の中広いわ…」 ハタ皇子もびっくりー…。 『リーバーっつう悪魔です』 「……………」 なんだろう。会話…。 これは成立してるのかな。 一見成り立ってるように思うのに、私、何も理解してないんだが。 土方君なんか、もう縁側なんぞを見て煙を吐き出している。 『教科書とか生まれて初めて熟読しましたよ。これまでの人生で、ちゃんと授業受けようなんて思ったこと一度もなかったのに。じゃないと、俺、ほんと死にますから。教科書でやったリーバーでーす。さ。追い掛けっこして下さーい。って、実物と対面出来ますとか聞いてないし、授業を真面目に受けなかった後悔とか半端ないし、いきなりバケモノと対面して追い掛けっこっつうか、逃げるしかないっつうか、ほんとこれも生まれて初めてですけど、沖田隊長にも感謝しました。副長にも。俺と日常的に追い掛けっこしてくれて感謝してます。おかげで俺、カエルにペロリ。されずに今を生きています』 「………………ふー…」 どうするの、これ。 と今日何度目かに思った時に、土方十四郎が大きく煙を吐いて、煙草を消した。 それから、ひとこと。 「後、頼んだ」 「はァ!?」 簡潔に言い置いて、土方十四郎はのしのしと部屋を出て行った。 いや、これ、土方君の電話じゃ…。 そのスピーカーフォンからはまだ山崎の呪詛が続いている。 『良いですよね、副長は。夢乃隊長と今一緒にいられて。仕事だからとか言うんでしょうが、こんな夜に二人で一緒にいるんですもんね!いつ二人がくっつくかって隊員が噂してんの知ってます?知ってますよね、知っててズルズルしてんすよね、あんたら。てか、もう実は隠れて付き合ってんだろコンチクショー…うぅ…くそぅ…うぅ…俺だって…、俺だって…』 おいおいおいおい。 「山崎、しっかりしろ」 『好きっす!夢乃隊長!』 「オイ、コラ」 『もうこの際だから、はっきり言って下さい! 二人が付き合ってんなら、俺、……諦めます。…諦めて、俺、エクソシストに俺はなる…!』 「だあぁ、もう落ち着け、山崎。 土方君はもう部屋戻ったよ。 それからねぇ、私も土方君も付き合ってないからね」 『嘘だー!』 「嘘じゃない。 私が好きだって言ったことも、言われたこともないよ」 『………………言わなくたって…そういう関係にはなれます…』 「………あんたね、…あの鬼の副長サンがそんなことすると思ってんの?」 『だからこそです。 言わなくたって…、想い合ってるかもしれないでしょ』 ちょっと驚いた。 私にとって、十四郎君は少し、特別な人で。これは誰にも言ったことない。 たぶん、組に入ってなかったら、いつかそんな関係になってたかもしれない。そんな、存在だった。 「あんたね、…いいから、今日はもうお風呂にゆっくり入って寝なさい」 『…うー、…駄目だ。マジ泣けてきた…』 「疲れてるんだって。 早く寝て、とりあえず悪魔?退治の授業とやらを死なないようにしっかり受けなさい。 なるべく早く戻れるように土方君に言っておくから」 『夢乃隊長〜』 「ほんと、早く戻ってきなさいよ。 そのままそこにいたんじゃ、みんな山崎のこともうジミーって呼べなくなるじゃない」 エクソシスト?になんてなったらもう地味とは言えないキャラになっちゃう。 そんな山崎は嫌だ。 「山崎は普通に、うちで土方君と沖田君に追い掛けられてれば良いの。 バケモノガエルなんてのは、そちらの専門家か、沖田君みたいなのが相手するから大丈夫。 早く戻ってきなさい。たまには慰めてあげるから」 『ま、マジでか!!』 「たまによ、たまに。 たまにならミントンの対戦相手になってあげる」 『ミントン…!?……それだけか!とか思うのに、チクショー、嬉しいっす!!好きです!!』 「はい、はい。」 『あ、あの!…夢乃隊長は、副長のこと、好きなんですか?』 「さァ〜どうでしょ〜ね〜」 十四郎君と、はっきり話したことはない。 でも、組に入った時から、私は「十四郎君」と呼ばなくなって。 十四郎君は、私の名を呼ばなくなった。 言葉なくとも想い合って…。って? そんなつもりでいた時期もあった。 でも残念ながら、私も十四郎君も、そんなに繊細には出来てなかったんだよ。 「ほら、明後日の非番にだったら刀を持ってってあげるから。 大人しく寝なさい。おやすみ〜」 『っ!!…待ってます!!絶対ですよ!?約束ですからね!! 久しぶりに怖い夢見ないで眠れそうです!あざっす!』 「はいはい、おやすみ」 『おやすみなさい!!』 もしもの、十四郎君と歩む未来を、なんとも未練がましく思っていた…そんな時期もあった。 でも、それを克服させてくれたのは、 素直でよく喋って仔犬みたいに尻尾振る、そんな年下の男の子の存在。 喧しく、結構毎日うっとおしくても。いなきゃいないで、落ち着かないものだから面白い。 ねぇ、そのくらいには気になってるよって。そう言ったら君は……………うーん…大変喧しそうだから言えないや。 ま、明後日の非番には、仕方ないから顔見に行ってやるか。 どーせ、土方君はもとより私に行かせるつもりだろうし。 黒豚まんだけじゃ駄目だな。 ピザまんと、コンビニ限定スイーツのプレミアムなやつも奢らせよう。 そんで山崎には、ワケわかんないモンに染まる前に早く帰ってこいって言ってやらなきゃな。 2015.10.30.longの今日〜シリーズの続編?明日〜(青の世界)スピンオフ。でした。(なんじゃそら) [*前へ][次へ#] [戻る] |