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二人の幸せ者


身のこなしがなかなか良いと思ったら、
それは女だった。

気を付けて見ていれば、
それなりに良い働きぶり。

いつの間にか1番隊の末席に入り、
精鋭揃いの中でも、それなりに頑張っているようだ。

なにせ、女。それなりには気になった。




1番隊の事務仕事を引き受けることが多かったのも、あの隊でパシられてる訳じゃなく、
唯一まともだったからだ。
総悟だって、女のくせによくもまぁ、とよく呆れていた。
それなりに評価していたからこその1番隊配属。

てな感じで、主に事務面で俺とそれなりに接点があった夢乃。
俺が、あいつの憧れのような視線に気付いたのは結構早かったはずだ。

むず痒く鬱陶しかったそれも、段々と慣れてきて、
いろいろと試したりからかう余裕すら出てくるまでになった。


それでわかったのは、
あいつ、無自覚か?
という事実。


無自覚なら、自覚しない方が良い。

俺なんかに惚れたところで、
どうにもならないんだ。

感謝しろよ。と思った。

それから我に返る。

恩着せがましく感謝?

俺は、夢乃に自覚がない方が楽なはずなんだ。

自覚があって、告白でもしてきたら振らなきゃならねぇ。
俺は女を作る気はない。

だが、自覚がなかったら。
自覚…させたい、気持ちがあった?

そんなまさか。

俺なんかと付き合っても、誰も幸せにはならねぇ。

付き合っても、って、それは。
俺があいつを受け入れる気があるってことか?


まぁ、あいつなら、
俺とでも、やっていけるかもしれねぇ。
女とはいえ、あいつは剣士だ。
俺の理解者にはなるだろう。

ただ、幸せには、してやれねぇ。
だから。
自覚すんな。

俺はお前の為に、知らないふりをしていてやる。
感謝しろよ。
お前の幸せを考えてやってんだからな。
そのくらいには、お前が大事らしい。
告白されたら断れないくらいには、惚れてんだよ。








それが、
酷く拙い告白でぶち壊されるとは思ってなかった。

たどたどしいにも程がある日本語。

お前…本当に俺のこと好きなのか?

そうか、お前馬鹿だもんな。


知らねぇぞ。
俺に告白するってことは、
幸せにはなれないってことだ。

振ってやれねぇよ。お前だけは。

馬鹿だな、本当。





「おい、総悟と油売ってる暇があんならマヨでも買って来んの付き合ってくれ。
ちょうどお一人様2本までの特売なんでな」

「土方さん、良いですよ。誰か隊の暇そうなの連れて行きますから。お仕事してて下さい」

「え、俺は?行ってあげやずぜ?」

「隊長もお仕事あるはずですよ。戻って下さい。
じゃ、行ってきます」

総悟と話すあいつ。嫉妬しなかった、と言えば嘘になる。

「………随分、余裕ないんですねェ、土方さん」

「うるせぇ総悟。ひとの女に絡んでんじゃねぇ」

「女、ね。
土方さんの女でも、俺の部下でもあるんで。
公私混同はいけねェや」

「お前の「公」は一体どこだっての」

「あいつ、土方さんって呼ぶようになりやしたね」

「やっとな。副長よりましだろ」

「土方さん、あの女、馬鹿ですぜ?」


知ってんだよ。それくらい。






「え?結婚、ですか…?」

見合いの話が来ていた。
見合いをしないか、と。
相手が相手で、すればまず断れない話だった。

「嫌か?」

「いえ、あの、でも、想像つかなくて。
結婚…?」

「籍だけでもいい」



想像つかないのは俺だって同じだ。

同じだから、上手くいくと思っていた。


結婚を期に変わることも出来ただろう。


だが、あいつは変わらないことを選んだ。

『私、組を辞めたくないです』


隊士として、尊重してやりたい思いだった。


結果後悔するとも知らずに。




『土方さん、全治2カ月だそうでさァ』

『そうか…』

『俺を責めないんで?』

『お前があいつを見捨てる訳がねぇ。
あいつのヘマだろ。今回も』

『ここんとこ怪我続きでしたからねィ。
心当たりは?旦那さん』

『ねェな。
いくらあいつでも、やっぱ女だからな。
俺達にはわからねぇ衰えもあるのかもしれん。
そろそろ異動を考えてやらねぇと』

『あんた、旦那だろィ?
あいつが異動を受け入れるとでも思ってんでィ?
衰え?馬鹿言うな。
しばらく黙ってりゃ良い。土方さんが異動を伝えるまでにあいつが結論を出すはずでさァ』


その後、
嫁が伝えてきたのは、組を辞めるという意思だった。



問い詰めるべきだっただろう。


自尊心が邪魔をした。
総悟にはわかって、旦那の俺がわからないのは
素直に認められるものではなく。

どうして俺に言えない?

その疑問すら聞けずに。
無駄に時間を過ごし、あいつを独りにし、
一人俺は腹を立てていた。

そのまま、擦れ違い続けたんだ。


帰った家に、
あいつが不在だったのは本当に驚いた。

総悟や万事屋を疑ったりした。
心配よりも腹が立った。

俺が帰らないと思って家にいない嫁も。
理由も連絡もない嫁も。
毎日帰ってやれない俺も。

あまりに腹が立って、何も言えなかった。


そうして、俺は今、全てを後悔している。


脳腫瘍、と医者に聞かされた。
相当の我慢と精神的、肉体的負担があっただろうこと。
病気は別にしても、
彼女には相当の精神的負荷がかかっていたと。
医者に言われるまで気付かなかった。

ストレスなんざ、
組にいれば当たり前だと思っていた。
命のやり取りをストレスと思わない奴は総悟ぐらいのもんだしな。
だが、夢乃のは組を辞めても消えなかった。
「普段、ずっとお一人でいるそうですね」
山崎と会う以外、あまり誰かと会うことも話すこともなかったらしい、と。
医者は暗に俺を責めた。
そんなに山崎と会っていたのだって初めて知った。
帰れない時の使い走りはさせていたが、そんな頻繁には頼んでねぇ。
考えてみれば、同じ年頃の女が着飾って笑って友達作ってる時間を、あいつはむさ苦しい男所帯で刀振り回して汗かいて。じゃあはい辞めました、ってすぐに普通の女みたいに暮らせるはずがなかったんだ。








「トシ、って、あれ?
もういないの?」

「はい、ほうずいふん前ひ、出て行ひまひた」

「…どしたの、山崎、その顔…大惨事?」

「局長〜、聞いへくらはいよ、夢乃が帰っへ来るまへひ部屋の掃除ひっちりひとへば不問にひてやるって言っはのひ!!」

「自業自得でさァ。流石の土方さんでも、旦那のいない隙に嫁のとこに上がり込まれてたら怒るってもんでィ」

「ほれ、沖田はんが何かと俺に用事言いつけて行かへたのも原因でひょう!」

「あぁん?最初に夢乃が心配だからたまに気にかけてくれって相談して来たのはお前だろ」

「ほーでふけど!絶対あることないこと、話に尾ひれつけはでひょう!!」

「まぁまぁ、二人とも。
何言ってるかわかんないよザキ。
会話になる総悟、お前すごいな!
まぁ山崎は早く掃除しちゃいなよ、夢乃ちゃん着いちゃうよ?
病院から直接来るんだっけ?
いやー、楽しみだね。トシったら珍しく照れてたからさぁ」

「気持ち悪ィ…」

「だが、総悟、
あの二人は付き合ってる時から何故か素直じゃなかったし。少しくらいノロケてもらった方が俺達は安心するだろ?
それに、やっぱり病み上がりの大事な時期に一人で家に置いておけないじゃないか。
治って家に戻っても、夢乃ちゃんには事務員でも何でも、組で仕事をしてもらおうと思うんだ」

「病気治ったら復隊も可能でひょうけど、副長が許さなほうでふもんね。
事務員て…、最強の事務員誕生でふけど。
確かに、夢乃はんいなくなって仕事的に大損害受けたの、一番隊でひたね。
事務処理も沖田隊長の扱いも、みんな任へてたから…ねぇ、沖田はん?」

「…土方さんのノロケてだらしない顔は隊士への暴力にもなりやすが、ねィ」

「逆に、うちの嫁に手ェ出ふんひゃねぇって般若になる可能性もありまふよ、沖田はん」

「お前はまァ、それ以上ボコボコにされないよう、気を付けるこった」

「まぁ、なんにせよ、トシも夢乃ちゃんも。こうして皆に好かれてて、幸せもんだな!
俺も早くお妙さんと…!」

「「それは無理だろ」」





2014.07.19

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