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二人の不器用者 (土方)



「好きです。副長。ずっと、副長のことを、私、あの、好きで!っあれ、とにかく、えっと、好き?です!」

ああ、最低だ。当たって砕けてしまおうと思ったのに。
ちゃんと当たることすら失敗か。
まずは日本語からやり直してこいと言われて終わりそうだ。
でも、好きだとは言えたから。
答えくらいは下さい。副長。

だって、もう辛いんです。
貴方を好きでいることは。


「…………そうか。…わかった。
んじゃあ、まぁ、付き合うか」


「はい、そうですよね、私もわかってましたから。
これで気持ちに区切りが……え?って待って…待って下さい?
いま、ふくちょう、…え?わかった?って?」


「お前…生まれも育ちも大江戸のくせに、言葉分からねぇのか?
バカだとは知ってるが」


「ああ、ですよね。
なんか信じられない言葉を副長が発した気がしたりして、勘違いですよね、私の。あはは、びっくりしたー」


「あ?
俺のこと好きなんだろ?」


「え、はい。そう言いましたよね、さっき。
好きですよ。副長のこと」


「じゃあ、付き合うか」


「ん?何を、でしょうか?」


「………お前は俺と付き合いたい訳ではない、と?なら…」


「待っ待っ待ってっていうか、はい!
付き合いたいです!付き合いたいですよ!
好きです、私!これが嘘でもドッキリでもないのなら!
夢みたいで、信じられないくらい幸せです」


「そうか。そりゃ良かったな」











なにが、信じられないくらい幸せ、なのか。

少し考えればわかったろうに。



『悪いが、他を当たってくれ』



十四郎さんが一体どれほどの美女を泣かしてきたのか、
私は一番よく知っていたはずだった。
それも、ほとんどが、たった一言で。


ミツバさんと言ったろうか。
惚れていたらしい沖田隊長のお姉さんすら、副長は遠避けた。


誰にどんなに言い寄られようと、
絶対に受け入れることはなかった。

それをずっと、私は見てきた。

十四郎さんが、気持ちを伝える女性を拒絶するたびに、私はどこかホッとして、そして、心をえぐられる思いがした。
彼女達は未来の私、そのものだったから。


『じゃあ、付き合うか』


なんて。
私ごときに、どんな奇跡でも起こらない異常事態だった。



『可哀想にねェ』


いつだっただろう。
沖田隊長の言葉だった。

十四郎さんと付き合ってしばらくしてからだったと思う。
いや、違うな。
結婚の報告に行った時だ。
からかうでも、怒るでもなく、たった一言、沖田隊長が言った言葉だった。

あとにも先にも、私と十四郎さんの関係について沖田隊長が発言したのは、これだけだ。

聞いた時、ドキリとした。
頭を下げていた私には表情はわからず、頭を上げれば、もう背中を向けていたから。
『可哀想』。それが誰を指すのか、私には怖くて聞くことも出来なかった。

十四郎さんか。
私か。
ミツバさんか。
これまでの十四郎さんにフラれた美女達か。
他の誰かか。












結果。

私達は、時間が経つほどに冷えていった。

冷えていった?
もともと、最初から温まってもいなかったか。
冷えていったのは、馬鹿な私の自惚れ度。もしくは能天気さ、か。




『副長、私達、付き合ってるん、ですよね?』

『別れたいのか?』

『いいえ、すみません…』


結婚だって、
ただ淡々と決まっただけだ。
しておくか。そんな流れ。


『土方さん、結婚は良いんですけど、私、組を辞めたくないです』

『好きにしろ』

『ありがとうございます』


だから、結婚したって、
戸籍上名前が変わっただけで。
組の中で紛らわしいからと、仕事では旧姓を使ったため、変化なんて何もなかった。

私に変化が起こるまで。



『十四郎さん、私、組を、辞めようと思います。
これ以上いても、戦力にはなりませんから』

『そうか』

『今まで、ありがとうございました』

『ああ』

『それで、私は隊舎を出ることになります』

『そうだな、家はこの近くで好きに決めて良い』

『え、あの、十四郎さんは、隊舎では?』

『まぁほとんどこっちに泊まり込みになるだろうが、近ければ帰れる日もあるだろう』

『はい、では近くで探します』


笑われるだろうな。
まさか組を出たら、十四郎さんともそれっきりになると思っていた、なんて。

夫婦だったっていうのに。









「十四郎さん、お話が、あるんですが…」

「……後にしてくれ」

「でも、あの、せっかく家にいるなら、と。
疲れてるところすみません。でも、また来週お帰りなら、今日話しておかないといけないことが…」

「………わかった。話せ」

「十四郎さん、私、今度、手術を受けることになりました」

「……………………いつだ」

「明後日には入院して、それからなので、しばらく病院にいることになりそうです。だから、来週にお帰りの時には私はいないでしょう」

「先週、うちにいなかったのは、それでか」

「はい、少し入院していましたので。
って…十四郎さん、帰ってたんですね…いなくてすみませんでした」

「何故言わなかった」

「先月、十四郎さんが帰って来た時は入院する予定はなかったんです。
それから会えなかったし、お仕事大きな山だって聞いていたし…。
それに、先週は突然悪くなって病院に行ったら帰してもらえなかったので…事前にお知らせも出来なくて。帰って来てるとは思いませんでしたし」

「……そうか」

「せっかく来週、帰って来れる時にすみません。
なので、来週は隊舎にいた方が…」

「…何故だ?」

「え?私いないんで、ご飯もないし、、」

「適当にするからいい。
一応、俺の家でもあるんだ」

「…ああ、はい、そうですね。すみません。よろしくお願いします」

「俺に見られて困るもんでもあれば片付けておくんだな」

「そんなものあるわけないじゃないですか…」


そうですね。そうでした。
私の家は、十四郎さんの家でもあるんでした。
忘れてて最低な妻だと思います。
でも、遠距離でもないのに、十四郎さんがこの家にいた日数って、もしかしたら山崎が使い走りにやってくる回数よりも少ないかもしれないって気付いてます?
私の為に、わざわざとりあえず来てくれているんだと思ってました。
十四郎さん、この家で少しは気を休めてくれていたんですか?我が家みたいに、少しは思ってくれていたんですか?






『付き合うか』と言われた時に、気が付いた。
本当は気付いていた。

十四郎さんが、私に惚れてくれることはないんだなぁって。

惚れた女には幸せになって欲しいとミツバさんを突き放して。
私はといえば、お飾りにはちょうど良かったから、受け入れたんだろう。

薄々、いや、しっかりわかってた。わかってたよ。








「…………え、十四郎さん…?」


「起こしたか」


「まだ、あの、お昼…ですよね?」


「そうだな」


「なんでいるんですか、平日、ですよね。…もしかして、局長が?」


「ああ。見舞いに行けと言われた」


「すみません、大丈夫ですと局長にお伝え下さい」


「明日会えたらな。
どっちにしろ、帰れば怒られるだろ。しっかりついていてやれと言われて来たんだ」


「明日って、今日はこのあとお仕事…」


「近藤さんに全部取られた。今日はもう戻らなくて良いらしい。問答無用ってヤツだろ」


「そんな、私、大丈夫ですから!」


「大丈夫な奴は入院なんかしねぇよ」


「……………」


「よく、寝てたな」


「あ、はい、なんだか、昔の夢を見てました」


「昔の?」


「十四郎さんと付き合うことになった時の、です」


「そうか」


「懐かしかった」


「怖いか?」


「え?手術…のこと、は、怖くないですよ。
先生から聞いたんじゃないですか?
手術で治るって」


「それは無事に成功すればの話だろ。
失敗したら、治る治らないでは済まないと」


「あの先生脅かすんですよ、大袈裟なんです」


「だが、嘘でもない」


「まぁ、そうですけど」


「失敗しても、構わないのか」


「失敗したら死ぬのは、組にいたときだって同じですし」


「自分が、と、相手が、では全く違うが」


「運次第、みたいなもんです、どっちも」


「お前は、死にたいんだな」


「なんですか、それ」


「幸せじゃあないから」


「幸せですよ、なんたって、大江戸の誇る鬼の副長の妻です」


「だが、お前自身は、幸せじゃあない」


「勝手に決めないで下さい」


「死んで生まれ変わって幸せになりたいか」


「……………」


「お前はずっと後悔してんだろ」


「やですね。何を後悔するって言うんですか?」


「俺に、好きだと言ったこと」


「やだ、どんだけ昔の話だと思ってるんです?」


「…………医者に聞いた。
組を辞める前には、もう酷くなってたんだってな。
それで、辞めたのか」


「足ザックリ斬られましたからね。隙どころじゃないですよ。敵に頭を打たれた訳でもなく目眩起こすなんて…。
さすがにおかしいと思って病院行ったんです」


「傷受けたのは病気のせいだったって…何故言わなかった」


「病気だろうとなかろうと、戦力にならなければ辞めるしかない。言い訳がましいでしょう?」


「………」


「聞かれませんでしたし。何も」


「意地っ張りって言われたことは?」


「よく言われます」


「お前は、俺の何だ?」


「それ、十四郎さんが聞くんですか?
私、…私は、……。本当…やだなぁ、今さらこんな…。修学旅行の夜でもないんだから。
暴露大会なんて、無粋じゃないですか?
手術のことも、終わるまで全部黙っていればバレないと思ってたのにな。
……わかりました。
では、仕方がないので言ってしまいますが。
私、十四郎さんはどうせ家にはほとんど来ないと思ってたんです。その通りだったものの、今になって計算違いでした」


「来ないとは何だ、来ないとは。
俺の家だろ。そこは帰る、にしとけ」


「すみません」


「なぁ、これは提案なんだが」


「?」


「俺達、やり直すことは出来るか?」


「それは、私と?」


「他に何がある。あほか」


「退院しても、待っていて良いんです?」


「それについても。
退院したら、しばらく隊舎で療養しろ。
あの家じゃ俺も毎日帰れねぇし、近藤さんも心配してる」


「大丈夫です。今までだって一人で…」


「だから。
それをやり直したいっつってんだ馬鹿」


「……本当に…?
私で、良いんですか?」


「……………その様子じゃあ、違うんだな」


「??」


「なんでもねぇ、こっちの話だ」


「私にだけ暴露大会させておいて秘密主義ですか?」


「……総悟の奴が、お前が浮気でもしてんじゃねぇかって面白そうに言ってくるから、心配してたんだよ。…近藤さんが」


「まさか。山崎でも使って調べればすぐにわかったでしょうに」


「その山崎と浮気してたらどうする」


「は…?
もしかして…最近急に帰ってくるのは、それを気にしてたから…?なんて、ないですよねぇ?え、嘘…。気にして、くれたんですか?」


「…ったく、お前は俺の何だ?
そもそもだ。自分で言っといてなんだが、離婚したわけでもねぇのに、何だやり直すって…ったく」


「ほんと、ですね…」


「俺のせい、かもしれないが。
最初に意地張ったのは俺だからな。
ちゃんと、言ってやれば良かった。つか、お前の告白がしどろもどろ過ぎんだよ」


「私のせいですか?」


「ああ。
ぐだぐだで、俺のこと本当に好きなのかもよくわかんねぇし。腹が立った。
俺といても、俺はお前を幸せにはしてやれねぇ。
だから、俺からは何も言う気はなかったんだ。
俺は、お前のことを考えてやってたのに、それをお前…しどろもどろに好きなんだか何なんだか、中途半端な気持ちで言ってんのか、と。
後で後悔しても遅いぞってな」


「ひどい。確かにぐだぐだでしたけど。
それは、それだけ緊張してたからで、中途半端な気持ちで言ったんじゃないですよ。
え、じゃあ、告白する前から…私のこと、好きだった…ってこと、じゃないですよ、ね?」


「俺の話聞いてたか?
ほんと、話通じねぇな。
付き合うかっつっても、勝手に振られたつもりになりやがって。
同情や打算だけで俺が結婚まですると思うか?
好きでもなきゃ、出来ねぇよ」


「……十四郎さん、意地っぱり過ぎです」


「認めてんだろ。お前もだからな」


「はい。
私、頑張って素直になりますから」


「頼むわ」


「十四郎さんも、頑張って下さいね」


「……善処する」




「手術…失敗するのが、怖くなりました。
だから、成功するように、願ってくれますか?」


「ああ。待ってる。行ってこい」


「はい。いってきます。」





帰って来たら、素直に伝えますね。
「もっとちゃんと帰って来て下さい」って。
「寂しいです」って。



それから、

「幸せです」って。


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