g.short この世界の永遠を望んだ 前 (坂田) ※ファンタジー設定ヒロイン 「えっと、玉ねぎ、白菜、春菊、人参、長ネギ、焼き豆腐、しらたき、あと牛肉?何か…っあ!」 ぶわっと急に吹いた冷たい風に、ちょうど開こうとしていたメモが舞い上がる。 かさりと音だけ残して後ろへ飛んでいったそれは、あっという間に見えなくなった。 振り返ると、人混み。 急に立ち止まった私を迷惑そうな顔で避けて行く人たちに、悪いなぁと思いながらも流れに逆行してメモを探した。 「お嬢さん、探しもんはコレかい?」 数歩も行かず、私の紙切れは見つかりました。 くしゃくしゃの頭に片手をやって、もう片手には、私のメモ。 だらしなさそうに歩く天パの彼、銀さんは、万事屋を営んでいます。 「玉ねぎ、白菜、春菊…?なんだ?買い物リストか?」 「そうなの、あとは牛肉だけかな」 「これってよぅ、」 「何が出来るでしょうか?」 「すき焼き?」 「正解!!銀さん、すき焼き好きだよね?今日のご飯はすき焼きにしようと思って」 「いや、好きだけどよ。 神楽も新八もいんだ、食費だって結構するだろ?無理すんなって」 「いいの。私がしたくてしてるの。毎日じゃないんだから、いいじゃない」 「でもなぁ、毎回…」 「銀さんが遠慮なんて、雪でも降るかな!?」 「俺だってたまには遠慮くらいしますぅ〜」 「そう?初めてみたなぁ。ふふ。 いいの。今日は贅沢したいの。 すき焼きってさぁ、家族って感じするじゃない?」 「…安易な奴。ま、んじゃごちそーさん。っと、お前シイタケ忘れてんぞ」 「あ、本当。えのきも!シメジも入れる?」 がさがさと彼の両手で音を立てるレジ袋にまで嫉妬する。 片方をねだると、彼は軽い方を渡してくれた。 私はそれを持ち替えて、彼と手を繋ぎ、彼の家に向かう。 きっと、神楽ちゃんも新八くんも、定春も、お腹を空かせて待っている。 家庭…って言うモノ。 そんな風に見えると良い。 「遅くなったら泊まってけば?神楽も喜ぶ」 「残念だけど、明日は仕事だから」 「ふーん? なぁ、お前…なんで泊まってかねぇの?」 「え?」 「いやっ、違う!違わないけど、違う!! 他意はないからな!? その、ほら、神楽が誘っても、どんなに遅くても泊まらないだろ?」 「家に帰らないと、駄目なの」 「何そのウチの父ちゃん門限に厳しいから的な理由!?高校生か!! そもそも独り暮らしだろ!!」 「そうなんだけどねぇ、朝が…」 「朝?」 「なんでもない、早く帰ろ?」 私はまた温かい場所を得ることが出来ました。 私に、家族はいない。 かつて、 私には数人の兄がいたけど。 私達は家族ではなかった。 私はヒトでもなかったから。 それから。 私はずっとずっと。長い、永い時を過ごして、いつの間にかヒトに近付いていた。そんな、存在。 そして、出会ったんだ。 銀さん。 彼といれば、私はヒトになれた様な錯覚を覚える。 家族になれる、と夢を見てしまう。 夢は、朝には覚めるのに。 「はぁー、食った食った。 ごちそーさん。…ついでにお前も食っちまいてぇけどなー」 「え?なんて?」 「こっちの話」 「そう? 銀さん…ここで良いよ。送ってくれてありがとう」 「ここ?お前の家まだ先だろ」 「ちょっと一人で歩いて帰りたいの。またね、銀さん」 「…………」 「銀さん?」 「ウソ…だろ?」 「っえ…?何が?」 「何が?全部だよ。 一人で歩いて帰りたい、とか、ウソ吐くな」 「ウソじゃないよ」 「ウソだな。…またね、もだ」 「!」 「もう、会わないつもりだよな?」 「…………だって!銀さんといたら、私、夢を見てしまう」 「見てろよ、夢。何が悪い」 「夢は覚めるんだよ!朝は、必ず夢を覚ますの。…必ず」 「一緒にいるさ。 俺との夢を見てくれるなら、俺は、夢乃が夢を見るまで一緒にいて、夢から覚めた時にもそばにいる。 起きても、夢を見せてやる」 「……それでも、朝は、必ずくるよ。 銀さん、私はヒトじゃない。私は普通じゃないんだよ。 …こわい。怖くなるの。銀さんと一緒にいると。消えたくないって、願ってしまうの。 私、もう、力残ってない。…もう、いつ消えてもおかしくない」 「ヒトじゃない…?消えるってなんだよ?」 「私、人間じゃないの。 信じられないよね、きっと。不老不死なんて。 不老不死…だったけどね、やっぱり終わりはあるみたい。怖くなる。ずっとずっと、それを望んできたのに…こんな…ぎりぎりになって、銀さんに出会うなんて。 消えたくないって…思うなんて」 「夢乃」 「消えたくない。…銀さんといたら、私、怖くて…。 だから、サヨナラしたいの。…怖がらずに、消えていけるように」 「怖いってさぁ、喜べよ」 「え?」 「俺と出会って、お前はやっとヒトになったんだよ。 お前がヒトじゃないとか、正直何言ってんのかわかんねーけどよ。 消えたくないって、怖いってのは、ヒトにとっちゃ当たり前のことだろーが」 「当たり前…?」 「当たり前だ。馬鹿だなー。 生きたい。死にたくない。って、当たり前だろ。 みんな目の前の現実にしがみついて、失うこと怖がって毎日生きてんだ」 「…生きたい…って、私と一緒?」 「そ。 同じだろ?それが、ヒトだ。 だから、お前もその恐怖を抱えて生きてくんだ。 怖いから、ヒトは誰かと一緒に生きようとする。幸せだと実感したいから。 そんで、俺は、お前と一緒に生きたい」 「銀さん…、私、いつ消えるかわからないよ?」 「俺だっていつ死ぬかわかんねーよ。 違うか?」 「違わ…ない。…銀さん…、一緒にいて、くれる?」 「おお、一緒にいてやる。 だから、ここにいろ」 「朝も、一緒にいて?」 「もちろん、つーか、喜んで?」 . [*前へ][次へ#] [戻る] |