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愚か者の恋 (沖田)



――PK戦となりましたこの戦い!どちらも一歩も譲りません!さぁ、どうだ!?入るか!?…入ったぁああ!4人目も決めてきた、奇兵高校!!対する真選高校!5人目、蹴るのはエース、沖田!さぁ、決まるか!どうか!?…決めてきたぁあ!!冷静に決めてきた、さすがエース沖田!






画面に映るヒーローを誇らしく思うよりも、あたしには、画面の中の泣いて喜ぶ制服の女の子達があたしの思考を侵食していくのを感じてた。



ばっかだな。


あたし、なにを思い違えていたんだろ。



恥ずかしくて、恥ずかしくて。















『…おう』


「もしもし?
今、大丈夫…じゃなさそうだね。
また夜掛け直すよ」


電話越しには、ガヤガヤとしたお祭り騒ぎ。
おい、どこ行くんだよー、エースさまよぅ。などと彼が祝いの席を立つことを教えてくれるものもある。

そりゃそうだ、と思う。
彼はエース。勝利へ導いたヒーローだ。


『うっせ、黙れ。ついてきたら殺す』


「そ、総悟?」


『ちょっと待ってろ』


「…………」



しばらくの喧騒の後、それらが幕で遮られたようにボリュームダウンする。


『あー…しんど…』


「総悟…。離れていいの?」

先ほどの喧騒の中には、サイン下さい!やら労いの言葉、女の子達の黄色い声まで、それらが全て、彼に向けられていたのだ。
それを完全に無視するかたちで出てしまうのは、いくらなんでも…。


『うっせ、…で?』


「え?」


『なんか用あんだろ?
珍しく電話なんかしてきやがって』


「あ、ごめん。
忙しくてどうせ出ないかな、と思ったから、気安くかけちゃった。
夜掛け直すつもりで…」


『ふざけんな。
出ないと思わなきゃかけて来ねぇのかィ。
…で?』


「あ、うん、で…。…で、ですね、
……優勝、おめでとうございました」


『おぅ。』


「決めたの、ちゃんと観てたよ。
テレビでだけど」


『ん。』


「テレビのが、実は好きなんだけどね。ちゃんとアップで総悟が観れるから。
……かっこよかったよ」


『ん。
…つーか…それ、メールで送ってきてたらマジキレやす』


「え、まさか、私だってさすがにそれは…」


『そうか?
毎日毎日メールで。お前、今日も遅ェし。
おめでとうくれェ一番に言えねェのかィ』


「だって…忙しいかな、とか」


『そういうんがめんどくせェ』


「…ごめん」


『謝るな』


「ごめん」


『……』

電話から盛大な溜め息が聞こえた。


「総悟、また今日も、応援行けなくてごめんね」


『…………テレビでは、観たんだろ?』


「もちろん」


『ならいい』


試合にも顔を出さない彼女。
総悟のファンからは恨まれても仕方がない。

ピアノやってるんだって。
将来はピアニストとか言ってるから、大変なんじゃない?
あぁ、お母さんもピアノの先生らしいよ。ちょー厳しいんだって。
家でずっと練習してるとか、あり得ないでしょ!
親が厳しいって言っても、彼氏とピアノどっちが大事なのって感じだよね。
そのうち別れるんじゃない?
…………そんな声ばっかりだ。


「ごめん…ごめん。
こんなにおめでたいのに、私、謝ることばっかり…」


『ほんとにな』


「テレビで総悟のこと観てたら、おめでとうって、すごく遠い気がして、言いにくくて、でも、どうしても伝えたくて…。そしたら練習に身が入ってないって母さんに怒られて叩き出された…」


『それで、電話してこられたのかィ』


「うん、情けないことに」


『母ちゃんの優しさだな』


「………遠回しな、ね。
そこに気が付くとは、ほんとイイ男になるね、総悟さん」


『お前も見る目、あるんじゃねェの?
にしても、あー…びびった。』


「え?」


『夜でもないのに、練習中に電話なんかしてくるから、別れるとか言い出されるのかと思ったんで』


「あぁ、…それも
…ちょっと考えたけど」


『ぶっ殺すぞ手前ェ』


「総悟さん、口悪い。
だって、応援してる女の子達、ほんとに必死で、喜んでて。
あの子達の方が…ずっと総悟に近いって………思ったりもしたけど、やめたの!
……総悟、待っててくれたんでしょ?もしかしたら、すぐかけてくるかも、って」


『全然すぐじゃァなかったけどな』


「それはごめんて」


『まぁ、いい。
俺だって、サッカーに将来かけてらァ。おあいこでさァ。
お前のためにサッカーやってるわけじゃねェ』


「うん。
私、そんな総悟だから応援してる」


『それも、おあいこってことでさァ』


「ありがと」


『精々、日の丸背負う俺とスポーツ新聞にでかでか写真が載るくれェ有名になって下せェ』


「何、その上目線…」


『忘れんなよ、俺は今日優勝に貢献した』


「う。…負けてられないな。
私と紙面賑わせるんなら、ちょっとはちゃんとしてよね」


『………チャラいのは高校までって決めてるんでィ』


「まだ先長いな!」


『あっという間でさァ』


「そう、かもね。
…私、総悟と出会えて良かったな。
これから先、生きていく先で絶対出会うことがないはずの人だったかもしれないから。
出会えたことに感謝する。
だから、簡単に別れるなんて言わないからね?」


『あーはいはい』


「わかってる?総悟が別れたいって言っても、納得しないからね?」


『はいはい、めんどくせェ』


「……総悟、」


『ん?』


「おめでとう」


『…ん。さっさと練習に戻れ』


「うん、頑張る。じゃあ、ね。
騒ぎすぎて土方先輩に迷惑かけないように」


『その名を出すんじゃねェ』



相応しい、相応しくない。


そんなこと、わからない。


私は総悟が良いと思った結果で、

総悟も私を選んでくれた結果だから。




ほんとは、

べつに総悟がエースじゃなくても良い。


私が良いと思ったのは、ただ「総悟」だから、で。


たぶん、総悟も、

私が何も出来なくたって、構わないだろう。



だけど。

それでは、総悟は「総悟」じゃなくて。

私も、自分を「私」だと認められないから。



周りからしたらバカだと思われるかもしれないけれど。


これが私達だから、きっと仕方がないのだろう。





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あきゅろす。
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