[携帯モード] [URL送信]

g.short
運命の至る場所から (沖田)
※某アニメのパロディです。
知らなくても大丈夫…かもしれない。
解説はdailyで。











もし、













過去に戻れるのなら。











あたしは。





















「やめろ!夢乃っ!」


背後から突き刺さる、退の声が。

ひどく滑稽に聞こえた。



「お願いします」


あたしは、その特別な椅子に腰掛けてこっちへ駆けてくる退を見下ろして。
操作盤に向かっている白衣姿の天人に頷いた。


「夢乃っ!…った!」

駆けてくる退が盛大に転けて顔面から床に突っ込む。
ぶつけて赤くなった顔が、もう一度あたしを捉えるけど、なんだか泣きそうな顔だった。


「ばいばい、退」


「やめろ!行くな!」


「ごめんね。
あたし、幸せだった」


「行かないで!好きだ!愛してる!
お願いだ!頼む…!」


「退、あたしも、愛してた」


「夢乃ーっ!」


必死で腕を伸ばす退。

届くはずないのに。


器械音が響いて、あたしの聴覚は支配される。

もう聞こえない、退の声。


目を閉じたつもりもないのに、
真っ暗やみ。

もう何も見えない。




滑稽なのはあたしの方だ。

進んで得体のしれない天人の科学者に協力して。

成功するかもわからない実験に身を捧げて。


馬鹿だってわかってる。



だけど、賭けてみたかったの。

何を犠牲にしてでも。


過去にいきたい。











さようなら



あたしの『運命の人』



















そして。

あたしは、過去にいた。


ここは確かにあたしの過去だ。

あたしの、部屋。

あたしの家。両親。祖母。妹。


確かに失ったはずの、あたしの過去。


ここから数年後、家族を失ったあたしは退と出逢うんだ。




「おはよ、お姉ちゃん」

「お早う、夢乃」


思わず零れそうになる涙をぐっと堪えて、手を握り締めた。
もう、二度と会えないはずの温かな空気が目の前にあった。


でも、あたしは立ち止まれない。



「父さん、母さん、
あたし、真選組に入りたいの」

















未来の記憶を辿って頓所へ向かった。

本来ならあたしが入るのは何年か先のことだから、やっぱり少し緊張する。

ここは過去。

だから、‘今’の皆はあたしを知らない。


受け入れてくれるかな。

あたしを見てくれるかな。

愛して…くれるかな。




「…ゃ……ー!……って……の…」


頓所の塀の向こうから微かに聞こえてくる騒がしさ。
未来と少しも変わらない日常。

‘今’のあたしは本来知らないはずの。


不思議だ。

この頃のあたしは、この日常を知らないで暮らしていたなんて。


「って、コノヤロー、神妙にお縄につきなせィ!!」

「ぎゃーっ」


はっとした。

‘彼’の声だ。


胸が高鳴る。


この壁の向こう。
確かに‘彼’がここにいる。

壁の存在がもどかしい。

会いたい。


玄関まで走り出そうと思った時、
その壁は轟音とともに崩れ去った。



「……たたたた、酷いです!沖田さん!ほんとに手が滑ったんです!!
…って、あ、君、ごめんなさい、驚かせちゃった?はは…」



退。

どうして。


やっぱり、『運命』だったんだ。

変えようと思って足掻いても、
やっぱり、最初に出逢うのは貴方なんだ?



退。あたしの『運命』の人。











「ザーキーヤーマー?
チョロチョロと逃げやがって。
次はちゃんと当ててやりまさァ。
……って、誰、あんた」


「沖田さん!一般人にそれ撃っちゃ駄目ですからね!」


「ならお前ェが喰らえ」


「っぎゃぁあああ!?」




悲鳴と爆発音を最後に静かになった往来で、あたしは立ち尽くしていた。


「で?なんかウチに用でも?」


「…え、あ、うん…じゃなくて、はい!
あたし真選組に入りたくて!」


「なんで」


「『運命』を変えたいから」


















『そうご…そうご、なんで…』


『なんでかねィ……。
お前…無事な…ら、そ…でいい』


『ばか…!今、退が救護班を呼んでるからっ』


『も…無駄で…さ…。
…おま…の…ために、生きたか…た…。だか…ら、これで…いい……』




あたしの為に生きてくれた。

ずっと知ってた。

総悟があたしを守る為に、無茶なことしたりしてたこと。

あたしは、何も返せなくて、
あたしの為じゃなくて、自分の為に生きて、とただ願ってた。


あたしの『運命』の人は、退だったから。



でも、こんなのは違う。

あたしはたくさんたくさん総悟に守られて、何も返してなくて。

これが『運命』だなんて、信じたくない。


あたしは、『運命』を変えてみせる。



大切な大切な人の為に。


失いたくない人の為に。





自分の為に生きて、なんてもう願わない。




どうか


あたしの為に、いて欲しい。







2011.11.20.

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!