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また会う日まで (高杉)


「…………またですか…」


お前の答えはいつも同じで、

浮かべる表情も、同じ。




「私は、応えられません」


「俺が嫌いか?」


「嫌いでは…ありません」


白い白い肌に、さらりと揺れた真っ直ぐな艶髪。

切り揃えられた前髪の下で眉が下がり、
少し細められる瞳。

それはすぐに伏せられてしまい、
俺を映さなくなる。


「…どうか、お帰りください」


彼女が眼を閉じたら、別れの合図。


「またな」


もう一度、眼を開く時に、
俺はいない。















少しずつ、寒くなってきたと感じる。
もう冬がくる。

『…っくしっ』

『晋助、もう少し暖かい格好をしては?
もう冬なんですから』

『お前が言うか?
寝間着でふらふらして』

『晋助がいつも夜中に突然やってくるからです。
…それに、私は寒くありません。
むしろ心地よく感じます』

『夏も夏で涼しい顔してたがねェ』

『ふふ、そう見えましたか?
……風邪、ひかないでくださいね』


そしてまた、俺は「好きだ」と伝えたんだ。





夏も冬も、
ずっと同じことを馬鹿みたいに繰り返してきた。

「好きだ」

俺はただ変わらない想いを伝え続け、
彼女は哀しむように眼を伏せる。


どんなに言葉を交わしても、
どんなに微笑い合っても、

別れ際の告白に、彼女が微笑うことはない。









屋敷の警備はいつも通り穴だらけ。

だが今夜は。

彼女の部屋の窓だけが、


いつもと違い、開いていた。






「……てめェは…」

「この屋敷の主人です。
今晩は。…初めまして、かな?
………晋助さん?」

「………………あいつはどうした」

「もういません」

「いない…?
ってどういうことだよ?
どこにいる!」

「いません…もうどこにも、いないんです」

「……死んだ、のか?」

「あるいは」

「…………………」

「サイバーテロ組織のハッカーに嗅ぎつかれたようでした。
夢乃…あの子には自己判断プログラムがあり、思考し、自分で決断することが出来ました。
…彼らプログラムの判断は一瞬です。私が止める間もありませんでした。
消去を選んだあの子は、一瞬のうちに消えてしまいました」

彼女の寝台に横たわるのは、彼女の器だったもの。
そう、彼は説明した。


「『晋助、私を忘れてくれたら、嬉しいです。幸せになってください。
ありがとう』
………夢乃が消える前に送ってきたメールに、貴方のことが書いてありました。
伝えて欲しいと…。あの子の最初で最後の、お願いでした」


「…なぁ、あんた」


「はい」


「俺の想いは、あいつに迷惑だっただろうか」


彼女が人間じゃないと、
俺はどこかで気付いていた気がする。

もし、はっきり知っていたとしても、
やっぱり俺は「好きだ」と伝えてただろう。

彼女は美しかった。

心が、本当に綺麗だった。


「…あの子は、どんな顔をしていましたか?」


「微笑っていた。
それから、哀しそう…だった」


「そう、ですか。
あの子は、本当に貴方の幸せを望んでいたのですね」


「俺の?」


「『愛する者の幸せを望む』のが人間だと、あの子は私によく言っていました」


人間かどうかなんて関係なかった。
平気で人間を殺せる俺が人間で、
あんなに美しかった彼女が人間じゃないなんて。
この世の中はおかしい。

『愛する者の幸せを望む』?

それは人間の理想なんだ。
人間はもっともっと汚い生き物だ。
理不尽で傲慢で。醜い。


「あの子を人間にしたのは貴方ですよ、晋助さん」




哀しげに伏せられた瞳。
もう一度開く時は、喜びを映していて欲しいと願う。



『生まれ変わりというのは、「魂」が行うものですか?』

『生まれ変わりだァ?
そんなもん信じてんのか?』

『「死」というものは検証出来るものではないでしょう?
否定するだけの根拠も見付かりません』

『でもなぁ、生まれ変わりを信じるより、この世を楽しむべきじゃねーか?』

『そうかもしれませんが、
生まれ変わりというのは、なかなか素敵な考え方だと思います』

『へぇ?』

『許されないことも、来世では許されるかもしれない』

『運任せだがな』

『そうですね。
それに、「魂」がないと。
「死」を迎えられた「魂」だけが、輪廻するのでしょう?』

『魂は万物に宿るとか言うけどな』

『万物に…。それは素敵ですね』

『そうか?』

『はい。
…私は、ちゃんと「死」ねるでしょうか』

『美しく散りてェか?
無様な死が嫌なら俺を呼べ。
俺が美しいまま、殺してやるよ』

『晋助に殺されたなら、私はちゃんと「死」ねるでしょうね。
…晋助に殺されて、巡り廻って、また晋助に会えたらいいのに…』




馬鹿だな、
お前は十分「生きて」たじゃねェか。


俺が愛したのは、
お前の魂だった。






2011.11.04.

某アニメの影響で書きたくなった人工知能。
T杉さんはロマンチストだと思います。

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