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彼の残像・後


隊長として、あたしは必死で剣を振るっていた。
進むしかない、と。

今日も、そうだった。

だから、先陣切って敵に突っ込んでいった。



『死ぬ気か!馬鹿野郎!』


心のどこかでは、そのつもりだったのかもしれないと思った。
死にかけたのに、あたしはどこか平然と「死ぬのかもな」と思っただけだったから。


鴨が死んでから、あたしは死ぬのなんか怖くなくて、どんな戦いでも怯まず突っ込んで行けた。
死ぬことは、出来なかったけど。


「どうして助けたりなんかしたのよ!」

死ねたかもしれないのに。

「ちょっと黙ってろ怪我人」


「ほっといて!
触らないで!自分で歩けるから!」


「足首、相当キてんじゃねーのか」


「捻っただけ。たいしたことないかもしれない‥ぅわッ!?」


「しっかり掴まってろ。
足場が悪ィ。足首だけならほっとくが、お前、今回はやけにボロボロじゃねーか」



助けられたのが悔しい。
姫抱きが悔しい。
心配されたのが悔しい。
見透かされたのが悔しい。
この男の背に腕を回さなきゃいけないのが悔しい。


厚い布地の、同じ隊長服の背と肩に、渋々二本の腕を回した。



「‥え‥?」


その瞬間、ある感覚を感じた。


「どうした?痛むか?」


「なんでも、ないわ‥」



この、感じ。

この、タバコの匂い。

この、温度。



フラッシュバックする、記憶。


あの時の、夢の中の、幻。











あの時。


あたしは、鴨の墓前にいた。

墓前で何時間もかけて彼の死を受け入れようとしてた。

やっと理解できた後は、やっぱり何時間も、ただ泣き続けてた。


他に出来ることなんて思い付かなかった。
ただ衝動のままに泣き続けた。

泣き過ぎて死んじゃえばいいと、もやのかかった頭で思った。




あたしはそのままその場で力尽きて、花を持ってきたっていう鴨の元部下達に運んでもらったらしい。

次に目を開けると、頓所のいつもの天井だった。




あたしは、泣き疲れて夢を見てた。

黒服が。隊長服を着た鴨が、「しょうがない奴だな」って言って、抱きしめてくれる夢を。

ほら、あたし達はやっぱりずっと一緒じゃないか。
側にいる。と。

『あたしは、ずっと愛してる』

あたしは再びそう彼と約束して、彼の背中にしっかりと腕を回した。



『ほんと‥しょうがねぇ奴』


黒い、隊長服。

温かかった、体温。

タバコの、匂い。


‥彼じゃ、なかった?

幻じゃなかったのか。

あれは、生きている人間だった?





「まさか‥‥そんな‥こと‥」


「あ?なんだって?」


「あれは‥、鴨だと‥思ったのに!
彼が会いに来てくれたんだと思ったのに!」


「‥あいつは死んだ。
もうどこにもいない」


「幻でも、よかったのよ」


「幻にゃ、こうしてお前を助けることなんざ出来ねぇな」


「‥‥どうして、あたしを助けたの‥?」


「言っただろ。好きだって」


目が霞む。
さすがに、無茶をし過ぎた。
意識もぐらぐらしている。
まだ駄目。まだ聞くことがある。



「‥どうして、‥あたしを、好きになったの」


「さぁな。
気が付いた時には、奪ってやりたいと思ってたからな。
アイツを疎ましく思ったのが先なのか、お前が欲しいと思ったのが先なのか‥。
アイツがいない今はもうどっちだって良いことだ」


頭がぼぅっとする。
思い出の中の彼とこの男が重なっていく。


「それでも、あたしには‥思い出が、ある」


「思い出の女は守れねぇ。
思い出の男も、お前を守っちゃくれねぇ」


「‥ひどい人」


「何とでも言え」


彼とこの男は違う。
全然違う。
‥彼じゃ、ない。


「もし‥あたしを手に入れたら、‥あなたの完全勝利、ね」


「んなわけねーだろ。
そんなこと思わねぇよ。
お前に関してだけは、伊東の勝ち逃げだろ。
サシでなら勝負にすらならなかっただろうな」


「意外‥。
‥負け、認める‥んだ」


「好敵手っつーのはそういうもんだ。
だが、奴は負けた。
もういない。
今お前の側にいるのは俺だ」


「‥‥そう、ね」


「ほぉ、認めるとは意外だな」


「あたしは、‥あなたを‥‥好きには、ならない」


「その意地もどこまでもつかね」


「‥あたしは、この‥タバコの、匂いも‥苦手、だわ。
‥、‥ちょっと‥疲れ、た‥‥」





「副ちょ‥ッ
‥夢乃隊長!?大丈夫なんですか!?」

「騒ぐな山崎。
ただ寝てるだけだ。それより、向こうはどうなってる?」

「沖田隊長率いる一番隊が制圧しました」

「そうか。
後始末は待機の四番隊に任せて撤収するように伝えろ」

「了解っす!
‥でも、珍しいっすね、夢乃隊長がそこまでボロボロになるの」

「ったく、コイツは無茶しかしねぇ。ザキ、病院連れてくから後は頼んだ。
‥にしても。タバコの匂い、ね。相当意識してくれてるって訳か。
‥‥夢の中でアイツに出て来られんのもムカつくし、起きるまでタバコでも吸って待つか」

「アイツって‥やっぱり‥」

「アイツはアイツだ、馬鹿野郎」





気なんか許したつもりないんだけど。

抱かれて運ばれてる、揺れが心地良くて。


彼には遠く及ばないけど。

極限に疲れてたあたしが、つい眠ってしまった程度には、安心出来る腕の中だったと思った。





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あきゅろす。
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